いよいよおやじ小屋に入る日である。
晴天。予報では17度まで気温が上るという。75?のリュックサックにテント、毛布、寝袋、食料,新しく買った山道具などをギュウギュウに詰め込んでいつもの尾根道から登り始める。(それでも1回では足りず2往復する)積雪は麓で70cm程である。朝の早い時間なので雪の表面が凍ってシミワタリで歩ける。絶好の荷物の担ぎ上げ日和である。
見晴らし広場でリュックを下ろして展望台に上って休む。2月には物凄い積雪に埋もれていた展望台も、デッキの大半が気持ち良く乾いている。再びリュックを背負って三ノ峠山が見える所まで来た時、サシバの鳴き声を聞く。甲高く「キス、ミィ~」と野鳥図鑑に書いてある聞きなし(鳥の鳴き声を人間の言葉に置き換えて表現すること)そっくりの鳴き声である。(午前8時45分) 2回目の担ぎ上げの時に、やはり同じ場所で三ノ峠山の上空を滑空するサシバを現認した。(13時40分) エナガも見た。木の枝にぶら下がって留まるしぐさが実に可愛いのである。サシバとエナガに出会えて、全く幸運である。
さて、おやじ小屋の様子は、2月に雪下ろしをしたせいで屋根の雪は無くなっていたが小屋の周囲はおよそ1.5mの積雪、陽の当たる南側だけは雪が解けて地肌が見えている。衝立形式の南窓がガタンと下に落ちて天井が50cmほども開いていた。
いつものように早速囲炉裏に火を焚く。燻されて小屋の外に出て窓と軒下から出てくる青い煙を見ていると「ああ、またおやじ小屋に帰って来たなあ」と感慨ひとしおである。
午後4時過ぎ、一気に気温が下がってきた。放射冷却である。スカスカの小屋ではとても寒くて寝れないので北側の雪の上にテントを張る。急いで鍋で飯を炊き、その鍋ごとテントに持ち込んで夕食にする。寝袋に入って酒を飲んでうとうとする。
風の音で目を覚ますと23時少し前である。テントがバタバタと風に鳴っているその隙に杉林の方からフクロウが「ホッホ、ゴロスケホッホ」「ホッホ、ゴロスケホッホ」と鳴き、テントのすぐ近くの池辺りで「タンタン、ダンダン」と動物が何かを叩いているような物音も聞こえて来る。(何だろう?リスかテンか?)
寒くてテントの外に出るのは実に億劫だが思い切ってチャックを開ける。満天の物凄い星空である。首を折った真上に大熊座が覆い被さって、ブナ平の上で北極星が蒼く光っている。放尿して一震えしテントに戻って、またゴロスケホッホとタンタンを聞きながら寝酒を飲み始めた。
百年杉の上で風が「シュ~」と休みなく鳴っていた。
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