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2006年3月24日(金)
出発

晴れて?ハローワークの3回目の失業認定も受け、次月分の求職活動のノルマもこなしたので、いよいよ本格的なおやじ山行きである。
山での所帯道具一式を車に積み込んで藤沢の自宅を出発した。出発時間が悪かったせいか、すぐに渋滞に巻き込まれ、予定の信州まわりのルートを止めて関越道で行くことにした。
上越国境の手前で真っ白な谷川岳を見ながらスピードダウンして運転していたが、終にパーキングエリアに車を停めて神々しい程の山容に見惚れていた。
もう今日中のおやじ小屋入りは諦めて、高速道路を湯沢インターで降りて夕日に染まる越後三山を見ながら運転する。
越後川口で町営の「和楽美(わらび)の湯」に入る。ここは以前にも来て気に入っていた温泉である。露天風呂から眼下に流れる魚野川とその向こうの紫紺に暮れなずんでいく連山、その上空の茜色に染まった雲の帯を見ながら実にのんびりと湯につかった。
おやじ山の登り口には夜遅く着いた。後部座席を倒して横になる。途中で買った日本酒の2リットルパックを傾けているうちに寝てしまった。







2006年3月25日(土)快晴
担ぎ上げ

 いよいよおやじ小屋に入る日である。
 晴天。予報では17度まで気温が上るという。75?のリュックサックにテント、毛布、寝袋、食料,新しく買った山道具などをギュウギュウに詰め込んでいつもの尾根道から登り始める。(それでも1回では足りず2往復する)積雪は麓で70cm程である。朝の早い時間なので雪の表面が凍ってシミワタリで歩ける。絶好の荷物の担ぎ上げ日和である。
 見晴らし広場でリュックを下ろして展望台に上って休む。2月には物凄い積雪に埋もれていた展望台も、デッキの大半が気持ち良く乾いている。再びリュックを背負って三ノ峠山が見える所まで来た時、サシバの鳴き声を聞く。甲高く「キス、ミィ~」と野鳥図鑑に書いてある聞きなし(鳥の鳴き声を人間の言葉に置き換えて表現すること)そっくりの鳴き声である。(午前8時45分) 2回目の担ぎ上げの時に、やはり同じ場所で三ノ峠山の上空を滑空するサシバを現認した。(13時40分) エナガも見た。木の枝にぶら下がって留まるしぐさが実に可愛いのである。サシバとエナガに出会えて、全く幸運である。
 さて、おやじ小屋の様子は、2月に雪下ろしをしたせいで屋根の雪は無くなっていたが小屋の周囲はおよそ1.5mの積雪、陽の当たる南側だけは雪が解けて地肌が見えている。衝立形式の南窓がガタンと下に落ちて天井が50cmほども開いていた。
 いつものように早速囲炉裏に火を焚く。燻されて小屋の外に出て窓と軒下から出てくる青い煙を見ていると「ああ、またおやじ小屋に帰って来たなあ」と感慨ひとしおである。
 午後4時過ぎ、一気に気温が下がってきた。放射冷却である。スカスカの小屋ではとても寒くて寝れないので北側の雪の上にテントを張る。急いで鍋で飯を炊き、その鍋ごとテントに持ち込んで夕食にする。寝袋に入って酒を飲んでうとうとする。
 風の音で目を覚ますと23時少し前である。テントがバタバタと風に鳴っているその隙に杉林の方からフクロウが「ホッホ、ゴロスケホッホ」「ホッホ、ゴロスケホッホ」と鳴き、テントのすぐ近くの池辺りで「タンタン、ダンダン」と動物が何かを叩いているような物音も聞こえて来る。(何だろう?リスかテンか?)
 寒くてテントの外に出るのは実に億劫だが思い切ってチャックを開ける。満天の物凄い星空である。首を折った真上に大熊座が覆い被さって、ブナ平の上で北極星が蒼く光っている。放尿して一震えしテントに戻って、またゴロスケホッホとタンタンを聞きながら寝酒を飲み始めた。
百年杉の上で風が「シュ~」と休みなく鳴っていた。












2006年3月26日(日)晴れ~雨
おやじ山2日目

 午前4時ごろから風が強くなってテントのターフがバタバタとうるさい。目は覚めてしまったが寝袋に包まったまま起きないでじっとしている。それにしても夜は寒かった。まるでミノムシ(最近はすっかり目にしなくなった)のように着込んだが駄目だった。どれほど着込んだかというと、体の中心から、先ず内臓ー骨ー少ない筋肉(私は痩せ型である)それから下着2枚ー厚手のチョッキー登山のシャツージャージのスポーツウェアー、そして寝袋ー毛布、ミノムシも「マイッタ!」というほどの重ね着だったが、か弱い筋肉がガタガタ震えていた。
 5時半にテントを出る。予想外に気温が上っている。助かった。小屋に入って囲炉裏に火を焚き、昨日の残りご飯に味噌汁の素を振りかけ、お湯を足してぐつぐつ煮の雑炊を作る。
 今日は一日、点検を兼ねて小屋の周りをぶらぶら散歩して過ごした。例年のように池にクロサンショウウオが白い卵を産んでいる。これからはもっと数が増えるはずである。もう掬って捨てたりはしないことにしよう。20~30年生の杉林は5本ほど雪で倒れたり折れたりしている。ほかの所の若い杉の木も何本か根元から倒れている。このうち何本起こせるだろうか?
 夕方からは雨の予報で今日も午後4時ごろから急に冷え込んできた。コールマンのガスコンロを出して、来る時に買っておいた鮭の切り身を焼く。笹を敷いて焼くと網に身がくっつかなくて上手く焼ける。直火が当たっても不思議に笹は燃えない。ホオバ焼きと同じ理屈である。
 飯を炊き終わって夕食の準備が終わった途端に雨が降ってきた。何とラッキーな。
 テントの中でラジオの相撲放送を聴きながら酒を飲み始める。朝青竜と白鵬の優勝決定戦は聴き応えがあった。7時に寝袋にもぐり込む。
 











2006年3月27日(月)晴れ
獣の気持ち

 おやじ小屋のストックにホカロンが何枚か残っていて、昨晩はそれを貼って寝たので良く眠れた。昨夜の雨も明け方には上って良い天気である。
 朝食前にスノーシューを履いておやじ山を散歩する。カタクリの山を回ってブナ平まで行ってみた。途中の尾根でリスを発見。30mほど先だったが、向こうも同時に気付いてビックリしたのか逃げ出す前の助走か大きくピョンと一跳ねして尾根の向こう側に消えた。
 ブナ平もまだ厚い雪に覆われていたが、その雪の上にブナの実の果皮がいっぱい落ちていた。見上げるとブナの枝にもまだ落果してない果皮がいっぱいである。昨年の秋にいかに大量の実を実らせたことか。眼下に長岡の中心街、その周りは未だ白一色の越後平野である。
 朝食後は南斜面、通称道子の斜面に行ってみる。斜面の上部半分ほどが雪が解け地面が現われている。ショウジョウバカマの花と今にも咲きそうなカタクリの蕾を見つけた。よくよく見るとショウジョウバカマの花茎が根元からスパッと切れている。葉にも動物の食痕がある。このように刃物で切られたような食痕は前歯で物を食べる動物、この山ではウサギである。
 しかし谷を挟んですぐ向かいの山菜の斜面には何と多くの動物の足跡がついていることだろう。まさに縦、横、斜めと様々な形状の点線がつながっているのである。そしてつい考えてしまうのは、「この動物たちは何をしに右から左へと移動し、何を考えて下から上へと登ったのだろう。それは食料を得るためだけの移動なのだろうか、他に何か深い思いがあっての行動なのだろうか」と。
 おやじ山では殆ど動物を見ることはできない。相手はじっとこちらを覗っているだろうが私の前に現われてはくれない。しかしこの雪の上の縦横無尽の足跡を見れば、おやじ山の獣は少なくないことが分かる。
 雪がまだ残っているうちにチェーンソーでナラの木を切り倒して薪作りとシイタケのホダ木を作ろうかと思ったが、山菜取りが山に入ってうるさくなるまで待つことにした。エンジン音でビックリさせて獣たちを山奥に追いやらないためである。まだまだ静かにしておいてやろう。賢いこの獣たちとの共存こそが私の願いである。


<<詳しくは「森のパンセ」で>>












2006年3月28日(火)晴れ~雨
春の気配

 おやじ小屋の前の日だまりに椅子を出して、毛布に包まって日本野鳥の会が出している「野鳥観察ハンディ図鑑」を眺めたり読んだりする。向かいの山菜の山の斜面の雪が午前の陽光に反射して眩しいくらいである。この山の峰から「ツョク・ピ~、ツョク・ピ~」や「チチロピ~ヒョリ~、チチロピ~ヒョリ~」などと何種かの鳥の鳴き声が耳に届く。まるで「私は誰でしょう?」と実地試験をされているようである。これらの鳥の鳴き声が聞き分けられるようになったら何と楽しいことだろう。
 毛布が日差しを吸ってぬくぬくと実に気持ちがいい。読書と鳥のさえずりとぬくぬく毛布とうたた寝で午前を過ごす。
 昼に再び道子の斜面を偵察に行く。今日はカタクリやキクザキイチゲの花も咲いて春が駆け足で寄って来ている。太いワラビが生える斜面にフキノトウが出ていた。
 午後は物置にあった端材でテーブルを作った。今まで腰を屈めて地べたで炊事をしていたがやっぱり具合が悪かった。ものの1時間で作ったがまあまあの出来具合である。
 夕方から雨になった。炊き上がった飯の鍋を持ってテントに入った。残さないように食べられるだけの一食分を上手く炊くのがコツである。酒を飲んでいる間に冷めないように鍋ごと毛布にくるみ込む。うんと昔、まだ電気釜など無かった頃、お釜を冷めないようにお袋がこんなことをしていたことを思い出した。
 雨が激しくなった。テントがバラバラと音をたてているが、至福の時間である。今夜は「ゴロスケホッホ」の鳴き声は聞かれない。 今日は記念日です。










2006年3月29日(水)雪
冬へ逆戻り

 昨夜の雨が雪に変わって、起きてテントの外に出るとあられ雪が積もっていた。ラジオの天気予報ではここ2,3日冬への逆戻りだという。山間部では40cmの積雪になるそうで、注意報が「大雪!雪崩!低温!・・・云々!」と5つも6つも並べ立てて脅している。ちょうどいい。この際山を降りて久々に風呂に行くことにする。雪が積もってしまうと夏タイヤの車では身動きできなくなってしまう。
 溜まった洗濯物とゴミを持って下山する。展望台のすぐ下まで来てキレンジャクに出会う。関東ではこの鳥が現れる所には愛鳥家のカメラの列が出来るほどである。キレンジャクはヤドリギの実を食べるが、なるほどこの辺りにはヤドリギがあったかも知れない。 少し遠回りして作業道路の雪の上を歩く。雪が滑り落ちたノリ面に常緑の野草がいろいろと目について、ホームページの新メニューで「冬の常緑山野草」というのも面白そうだなあ、と思った。
 



この後、30日、31日と雪が降り続き、春がまた遠のいてしまった。

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