<<前のページ|次のページ>>
最後のページは<10月29日>です。

おやじ山の秋 2012
2012年10月1日(月)曇り時々雨
おやじ山の秋2012(台風17号その3)
 昨晩は酔っ払っていつの間にか眠ってしまった。激しい雨音で目を覚ますとちょうど深夜の0時だった。テント生活の大敵は雨よりは風だが、台風の襲来にしては予想外の弱い風である。しかし猛烈な雨は午前3時頃まで続いて、そのままウトウトとして6時に起きた。台風一過、何とか無事にやり過ごすことができた。
 テントの外に出ると、上に張った家族連れのテントは、いつの間にか周りの道具はすっかり片付けられて、ピタリと閉じたまま静かである。

 畳んだターフを再び張り直しながら、「上の家族、一体どうしちゃったんだろう?」と心配していると、下の駐車場から二人の子どもがテントサイトに上がって来た。「おはよう!」と声を掛けても顔を青くしたまま返事もない。そして閉じたテントの前に立って「パパ・・・、パパ・・・」と呼び掛けている。どうやら子ども達は車に避難し父親だけがテントに居残って家長の意地を見せていた様子である。
 随分長い間二人の子どもはテントの前で立ち尽くしていたが、ようやく父親も起きて来て、それからそそくさとテントを畳んで午前8時には引き上げて行った。

 今日の午前中は、蓬平のKさんが再びおやじ山を訪ねてくれて、午後には長岡市役所のSさんが来るべき「天空のブナ林」イベント用の資料の受け渡しでキャンプ場まで来て下さった。
 
 夕食は七輪に炭を熾してサンマを焼いた。台風一過の無事を祝して秋の味覚で一人乾杯である。
2012年10月6日(土)曇り
おやじ山の秋2012(イベント下見と前夜祭)
 4日の昼の新幹線でカミさんがキャンプ入りし、その日の夕方、新宿からの高速バスに乗って森林インストラクター神奈川会のSさん、Uさんが到着した。そして今日の朝の新幹線で、同じ神奈川会の女性メンバーTさん、Kさんが加わり、さらに信州からやってきた友人のOさんもテントを設営して、キャンプ場は千客万来の賑わいになった。
 10時半に地元三条の森林インストラクターUさんがニコニコとテント場に上がって来て、神奈川会の皆さんと挨拶を交わし、早速明日実施される「猿倉緑の森の会」主催の「天空のブナ林トレッキング&自然観察会」の下見に出発した。自分を含めて神奈川会メンバー5人と、地元の森林インストラクターUさん、Mさんの合計7人で明日のイベントリーダーを務めることになっていた。

 主催地の蓬平町から猿倉岳に続く農道を車で進むと、途中の分岐点に「猿倉岳 天空のブナ林案内板」が立っていて、その前が大きな広場になっている。ここが明日のトレッキングスタート地点である。
 午前11時過ぎ、トレッキングコースの長坂ルートを全員で登り始める。最初は沿道の植物やきのこなどを丁寧にメモし、写真に撮り、図鑑で確認し、とやっていたが、歩けど歩けど目的地の天空のブナ林に着かない。予想外の難コースである。
 やっと辿り着いて猿倉岳山頂でコンビニ弁当を食べ、リーダーを務める皆さんをブナ林内や越後三山が望める展望広場に案内したが、明日は余程時間短縮で臨まないと駄目そうである。下りは車の通れる林道を歩いて出発点に戻ったが、これも可なりのロングコースである。
 みんなヘトヘトになって、午後5時キャンプに帰った。

 そしてOさんが痺れを切らして待っていた恒例のキノコ汁パーティーになったが、今日一日たっぷり歩いたせいか、酒の回りが早くて効くこと効くこと・・・すっかり出来上がってしまった。(まあ、いつものことだけど・・・)
 
2012年10月7日(日)曇り〜雨
おやじ山の秋2012(猿倉岳天空のブナ林秋のイベント)
 いよいよイベント当日となった。朝テントから出ると何やら不穏な空模様である。この日のために蓬平町の皆さんが森や登山道の整備に汗を流し、懸命に事前準備をして下さったので、何とか天気も持ちこたえて欲しいと祈るような気持ちである。

 Sさんら今日の4人のリーダーを車に乗せて、8時20分に受付場所の太田コミュニティーセンターに到着した。既に大勢の参加者が集まっていて、森林インストラクター新潟会のMさん、Uさんの顔も見える。神奈川会メンバーらを改めてMさんらに紹介していると、長岡市役所のM係長もニコニコとやってきて挨拶を交わす。
 そして9時開会。開会式の会場は、昨日の下見で車を停めたトレッキングスタート地点の広場である。猿倉緑の森の会の中村代表が、開会挨拶に続いて我々森林インストラクター7名の紹介を一人一人して下さった。
 開会式が終って、トレッキング参加の総勢47名(地元太田小中学校の児童生徒と長岡市内の子供たち13名、父兄や一般参加の大人27名、森林インストラクター7名)は「長坂コース」「林道コース」の二手に別れて出発。それぞれA、B、Cの3グループに分かれて森林インストラクターの説明を聞きながらの山登りとなった。

 11時半、昼食場所の「みんなの広場」に着いた。設営された大きなテントが3つ。一つは麓の温泉旅館の女将さんや蓬平町の奥さん連中が今日の昼食メニューに腕によりをかけている調理場、あとの2つのテントはブルーシートが敷かれた休憩室である。
 トレッキングの参加者が広場の向うに現れる度に、中村代表の奥様がおむすびをトレーに載せて調理場テントから飛び出して来る。そして到着した参加者のめいめいに走り寄っては、「ご苦労様です」と丁寧に頭を下げられるのである。「ああ〜越後の人だなあ〜」と何やら懐かしさが込み上げてきて、胸が熱くなった。

 差し出されたおむすびを頬張っていると、小雨が降り出して来た。到着が遅れた林道コースの参加者を待って、急ぎ天空のブナ林内の自然観察会を実施した。プラスチックのプレートに書いた樹木の名前を木々の幹や枝に取り付けながら、それぞれの特徴や和名の謂れを説明したり、キノコや木の実を見つけての解説である。

 そして腹一杯のカレーライスとトン汁の昼食。隣町の山古志からアルパカのサプライズ参加もあって、TさんやKさんは一緒に記念撮影するなど大喜びだった。

 今日のイベントの最後は、ブナ林の中での地元太田小中学校の児童生徒4人による森の演奏会だった。生憎の雨の中、天幕で張られたブルーシートの下で、あの懐かしい「ふるさと」をリコーダーで一生懸命吹いてくれた。

  ♪・・・  ・・・ ・・・ ・・・
  ♪・・・  ・・・ ・・・ ・・・
  
  ♪こころざ〜しを 果たして〜
   いつの日〜にか 帰らん〜
   や〜まは青き ふ〜る〜さ〜と〜
   水は、き〜よき ふ〜る〜さ〜と〜♪


 天空のブナ林に静に響き渡るリコーダーの音色に合わせて、小さく歌詞を口ずさんでいるうちに、思わず涙が零れ落ちてしまった。

 15時、激しくなった雨の中を参加者達と一緒に林道を歩いて下って、スタート地点の広場に着いた。参加した子ども達も皆、レインコートに身を固めて今日のロングコースを立派に歩き通した。Sさんなどは、悪いコンデションの中、一言も愚痴らずひたすら黙々と歩き続けた子ども等にいたく感心した模様で、「新潟の子ども達は素晴らしい!感動した!」と何度も何度も繰り返していた。

 そして最後に、老舗旅館の「温泉券」を貰って入った蓬平温泉の、何とゆったりとして癒されたことか!全く素晴らしい温泉に浸かっての今日のイベントの締め括りだった。
 蓬平の皆さ〜ん、お世話になりましたあ〜!
2012年10月8日(月)晴れ
おやじ山の秋2012(木の実採り)
 ようやく本来の秋晴れになった。SさんUさんがおやじ山に来てから5日目、TさんKさんが来てから3日目の待望の青空である。遠路遙々皆さんが越後長岡まで来て下さったのに、このままずっと雨続きだったらと気が気でなかった。本当に、良かった!
 朝早くTさんとKさんをおやじ山に案内した。お二人には着いた日早々から天空のブナ林の行事の手伝いをやってもらって、帰京の日の今日になってようやく実現した慌しいおやじ小屋訪問である。そしてミョウガなどを採ってもらってキャンプ場に戻り、今度はSさんUさんも連れ立って「いこいの森」に木の実採りに行った。今年のおやじ山はガマズミもサルナシも全くの不作で、いこいの森でもさほど期待はしていなかった。
 しかしいざ現地に着いてみると、さすが木の実採りには練達の猛者揃いである。不作の森の中を鵜の目鷹の目で探し歩いては結構の収穫である。

 いこいの森の帰りには栃尾の町に寄って、老舗の「常太とうふ店」で名物栃尾の油揚げをめいめい買い求めた。Sさん達がキャンプ場に来てから、殆ど毎晩七輪で栃尾の油揚げを焼いて酒の肴と夕飯のおかずにしていたが、よほどこの油揚げが皆さんの口に合った様である。

 午後1時半に長岡駅に着き、Sさん、Tさん、Kさんが乗る新幹線の出発時間までの間、駅ビルの食堂で別れの宴となった。そして改札口で3人とそれぞれ握手をして見送ったが、やはり寂しいものである。
2012年10月13日(土)雨〜晴れ
おやじ山の秋2012(サルナシのおこぼれと息子からの朗報)
 午前中は雨模様だったが、Oさん、カミさんと一緒にアマンダレを探しながら天空のブナ林を歩いてから、今度は南蛮山の登り口に回って萱峠に向う登山道を歩いた。昨年この登山道脇でサルナシの大きな繁みを見つけて籠一杯の収穫をみたからである。

 午前中の雨も上がって、気持ちの良い秋の青空になった。登山道からはおやじ山の稜線、三ノ峠山が望まれて、道脇には今が盛りと咲いているナンブアザミの花に、綺麗なアカタテハが何頭もとまっていた。
 いくら人気の無い登山道と言えども、やはり見る人はしっかり目を付けている様子で、残念、期待のサルナシは既に収穫された後である。しかし採り残しのおこぼれを丹念に摘んで、それでもたっぷり一瓶は漬けるだけの量になった。

 そして下山すると、携帯電話に息子からの連絡が入った。無事に第二子誕生との朗報である。カミさんは早速帰京の準備をして、午後5時の新幹線で帰って行った。
 夜はOさんと二人で酒を飲む。満天の星空だった。


2012年10月14日(日)晴れ
おやじ山の秋2012(ボンちゃんたちの訪問)
 北海道の大雪山に初冠雪があったとラジオが告げていた。例年より19日遅く、昨年よりも22日遅いそうで、明治何年かの気象台観測史上2番目に遅い初冠雪だという。長岡のきのこ採りの間では、この大雪山の初冠雪と庭の金木犀の開花が山に入るゴーサインだというから、やはり今年は異常な年ということになる。

 朝、Oさんがテントを畳んで信州に帰って行った。そして今日の昼過ぎには、実家の姪のボンちゃんがいつもの友達3人と連れ立って山に遊びにきた。皆さん今年もおやじ山でのきのこ狩りを楽しみにしていた筈で、「今年のきのこはサッパリだよ」という俺の言葉にめげる様子もなく、元気に山道を登って行った。
 案の定、食茸ではないシロイボカサタケぐらいしか生えていなくて、仕方なく皆さんをおやじ小屋の焚き火でもてなすことにした。囲炉裏の回りに座ってもらい、「こうして火を見るっていうのもいいもんでしょう? 酒と旅の歌人若山牧水や、ドイツの作家ヘルマン・ヘッセも焚き火が大好きだったそうだよ」などといくらかの蘊蓄を勝手に披露しながら薪をくべていたが、ボンちゃん達は喜んでくれただろうか?
 フランスで見つかった最古の炉床は、30万年〜40万年前のものだという。それで脳科学者の茂木健一郎はこのように言っているのである。
 『敵から逃れ、暖をとり、調理をし、火を囲むことは祖先にとって長い間続けて来た大事な時間だった。だから焚き火は、ヒトとして眠っていた情動や記憶の回路を引き出す働きがあるのではないか』

 残念ながらきのこの収穫はなかったが、それでもボンちゃんたちは午後4時、ニコニコと山を下りて行った。
2012年10月16日(火)晴れ
おやじ山の秋2012(アオーレ前夜祭)
 やはり大雪山の冠雪と金木犀の香りが奏功したと見えて、待ちに待った千本シメジ(シャカシメジ)がテント場に生え出してきた。このきのこがこんな遅い時期に生えたのは初めてである。

 そして今日は、いつもの高校時代の気が置けない仲間連中が東京や神奈川からきのこ狩りにやってきた。
 一時帰宅していたカミさんもこの日に合わせてキャンプ場に戻り、今日の昼間は同級生達に混じってダブルスのテニスに興じたようである。(俺は山と酒一辺倒で、こういう相手のミスに乗じて相手の居ない所に球を打ち込んで覇を競うような卑怯なスポーツはだめである)

 そして夜は、地元のO君、A君が丹念にセッテングしてくれた「長岡アオーレC会議室」で、明日の本番に向けての熱のこもった討論で大いに盛り上がり(何しろ市が管轄する公共施設なので)、興奮に酔って(何しろ市が管轄する公共施設なので)フラフラになってしまった。
2012年10月17日(水)晴れ〜雨
おやじ山の秋2012(Fさんパワー)
 午前8時半、昨日東京と神奈川から長岡入りした高校時代の同級生、Fさん、I君、T君、N君の4人がキャンプ場にやってきた。このメンバーでいの一番におやじ山でのきのこ狩りの先鞭をつけた伊豆のKさんは、残念ながら今回は欠席。お孫さんのお世話で、何とアメリカまで飛んで行ってしまった。

 いくら数日前に北海道の大雪山に初冠雪があってシーズンインしたとはいえ、やっぱり今年はきのこの裏年で小屋への山道はキノコの「キ」の字の気配もなかった。これはもうきのこ狩りは諦めて、絶好の今日の晴天を楽しみながらのんびりとおやじ小屋に向かった。
 そしていつも感心していることだが、Fさんが来ると(居ると)今まで不順だった天気があれよあれよと晴れてしまうというジンクスがある。おやじ山のみならず、Fさんが決めた日程でワイワイやる行事の殆どが好天に恵まれるという、全く不思議なFさんパワーなのである。

 おやじ小屋でしばらく時間を過ごして11時半にキャンプ場に戻ると、地元の同級生のA君が待ち構えていた。昨日もO君やA君、それにテニスのT君、そして今朝はやはり同級生のW君が駆けつけてくれて、高校を卒業して半世紀近く経った今も、こうしてふるさとの仲間達と昔通りの笑顔で会えることが本当に有り難いと思うのである。

 そしていつもの通りのキャンプ場での宴会になった。キャンプサイトに敷いたブルーシートに皆が車座に座って、柔らかい秋の日射しを浴びながらの実に愉快なひと時だった。

 午後2時、T君の車に乗って同級生達が帰って行った。キャンプ場下の駐車場でその車を見送り、そして急いで高台に登って、そこから県道を遠ざかって行く車にカミさと二人で大きく両手を振った。

 皆が帰った途端に、雨が降り出した。(ほらね、Fさんが居なくなったせいである)その雨が次第に本降りになって、一晩中強く降り続いた。
 
2012年10月19日(金)晴れ
おやじ山の秋2012(宮崎の奇人現る)
 一昨日同級生達が帰った直後から降り出した雨が氷雨となって、昨日も終日冷たく降り続いた。そして今朝はその雨も上がって爽やかな秋晴れの朝である。気温が下がって、ようやく初期のきのこアミタケがキャンプ場の周りに生えた。

 「おはようございます!」と、下の駐車場で突然坊主頭の男に挨拶された。朝飯前に車内のガラクタを片付けて外に出た途端、以前どこかで会った記憶のある男がニコニコと立っている。「はい、おはようございます・・・」と返事はしたものの、「はて?」と一瞬記憶をまさぐりながら再び車に入りかけて、「アッ!」と気付いた。2年前、北海道を皮切りに東北各県を野宿しながらチャリンコで放浪し、3ヶ月後にこのキャンプ場に流れ着いた宮崎のMさんである。「Mさ〜ん!」と思わず大声を上げて抱きついてしまった。
 やはり2年前の秋だったが、Mさんはこのキャンプ場に1週間滞在して俺達と一緒に飯を食い、酒を呑み、そしてまるで我が家の下僕のように重くもないカミさんの荷物を甲斐甲斐しく持ったり俺の山仕事を手伝ったりしてくれた。
 「昨晩遅くここに着いたんですけど、テントに声を掛けるとすぐまた『これから呑もう!』となって奥さんに迷惑掛けると思って車で寝てました」という。なる程、今回は自転車ではなく黄色ナンバーの軽自動車が駐車場に停めてある。廃車にするというこの車を友達から4万円で譲ってもらい、宮崎から4日かけてここまで転がして来たという。そして2年前の「一宿一飯、いや七宿七飯の恩義をお返ししたく、しばらくここに滞在して山仕事をさせてもらいたい」と言うのである。全くビックリしてしまったが、もちろん大歓迎である。二人でテント場への階段を上がりながら、「お〜い、宮崎のMさんが来たぞ〜」と炊事場にいたカミさんに声を掛けると、「あら〜〜〜!」と目を丸くしていたが、「今頃Mさんどうしているかしらねえ」といつも噂していただけに、カミさんにとってもMさんの突然の出現に仰天したに違いない。

 そして早速Mさんはおやじ小屋に行って、ストーブの据付や懸案だった煙突孔の工事などを猛然とやり始めたが、「Mさん、長旅で草臥れているだろうから、今日はゆっくり休んでよ」と声を掛けた途端、「ワタシ、遊びに来たんじゃありませんから!」と叱られてしまった。

 そして今日は、夕方の新幹線で神奈川からNさんが来た。明日の「千楽の会」には二人で参加するが、これもまた楽しみである。
2012年10月20日(土)晴れ
おやじ山の秋2012(大同窓会)
 午前中はMさんと神奈川から来たNさんと3人でおやじ小屋に出勤し、早速お二人には仕事の手伝いをしてもらった。
 そして昼前には下山して、Nさんと一緒に「あさひ日本酒塾」の大同窓会に参加した。同窓会といえば昔同じ学び舎で勉学を共にした連中が互いに懐かしがって集うものだとばかり思っていたが、こんな愉快な同窓会が企画されて参加しない手はない。

 実家からほど近い信濃川の対岸にある老舗の酒蔵「朝日酒造」が、毎年全国から(と言っても参加者の殆どは新潟と関東圏だが)20名程を集めて日本酒に関する薀蓄を教えるこの塾に参加したのは、3年前である。地元にいる同級生のA君から「お前にピッタリの会がある」と誘われて入塾したのだが、なる程、毎回の講義や実習(朝日山万寿の酒麹造りをやった)後の懇親会、それに卒塾者のOB会(千楽の会)の宴会は、まさに俺ピッタリで実に楽しい思いをした。神奈川の森林インストラクター仲間にこんな話をしたところ、2年前にNさんが入塾し、昨年はOさんが入塾した。そして今回の大同窓会は、開塾以来十二支の干支を一回りしたということで、一期生から十二期生までの卒塾者に呼びかけた記念の会合だった。

 宴会は、すぐには始まらなかった。(そりゃそうだろう。まだ真昼間だったから)先ず朝日酒造が新しく建てた巨大な酒蔵「松籟蔵」の見学会、続いて写真家の鈴木孝枝先生の講演があり、さらに8期生で利き酒士の資格を持つH女史の「お燗セミナー」があった。久保田千寿、朝日山純米酒、久保田碧寿の3種類の酒をそれぞれ38度の人肌燗と50度の熱燗で参加者全員に飲ませて(それも電子レンジのお燗と湯せんのお燗の両方で)「皆様、この違いがお分かりですか?」とご指導された。「エ!チガイ・・・?イズレオトラズ、タヒヘンケッコフナ、オサケデゴザヒマヒタ・・・」と、俺はもう宴会を待たずにすっかり出来上がってしまった。
 いよいよ場所を変えて宴会か?と思いきや、さらに泡汁体験というのがあった。これはもう蔵の中でしか味わえない貴重な味で、全く素晴らしいご馳走だった。
 そして楽しい宴会に身も心もすっかり解けて、Nさんと一緒に帰路についた。
 
2012年10月21日(日)曇り〜雨
おやじ山の秋2012(Mさんイベント、Nさん去りTさん来る)
 地元の森林インストラクターMさん主催、恒例の自然観察会「森林インストラクターと紅葉の森を楽しみましょう」に神奈川から来たNさんと一緒に参加した。参加者はおよそ20名ほどで、スタート地点の自然観察林入口から谷川沿いを「瞑想の池」まで歩き、そこからはコスモス広場の杉の展望台まで登って小休止。そして広場を下って「赤城コマランド」のベンチで昼食を摂り、午後は赤城コマランドのトレッキングコースを一周してから「岩野の池」沿いを歩いてスタート地点の観察林入口駐車場に戻るというコースである。

 途中の赤城コマランドでは、毎回三条から応援に来てくれる森林インストラクターのUさんが、土の中に棲む小さい虫たちの働きや森の生態系の話をパネルを使って分かり易く説明してくれた。そして最後に、Mさん手作りのネイチャークラフト(どんぐりアートや花炭など)の参加者へのプレゼントもあって、全くMさんのいつもの気配りには感心してしまった。

 そして今日神奈川に帰るというNさんにもリーダー役として手伝ってもらったが、イベント終了後はバタバタと帰り支度に追われて気の毒なことをしてしまった。

 そのNさんを長岡駅で見送りキャンプ場に帰ってくると、駐車場脇のテントサイトに小型テントが張ってある。テント脇には埼玉ナンバーの大型バイクが停めてあって、ツーリングでやってきた客のようである。
 声を掛けるとTさんと名乗って、会社からリフレッシュ休暇を何日か貰ってツーリングで立ち寄ったのだという。
 「夕飯一緒に食べない?」と誘うと、「もう食べました」という。「それじゃあ、酒一緒に呑まない?」と言うと、素直に「はい!」とこちらのテント場に上ってきた。そして宮崎のMさんと埼玉のTさんとで大いに盛り上がって、俺はとてもついて行けずにすごすごとテントに引き上げた。
2012年10月23日(火)冷たい雨
おやじ山の秋2012(カメムシ大発生)
 今年の秋は自然の歯車がおかしくなってあれこれと異常続きだが、ドングリの大量結実とカメムシの大発生にはびっくり仰天である。長年この山の自然を見てきたが、この2つの事象もかつて経験したことの無かった転変地異である。
 今日の明け方からの風雨でコナラのドングリがまた大量にキャンプ場に落ち、氷雨でカメムシも一気に増えた。

 朝、雨のなかを麓の村に住むNさんがテントに訪ねてきた。「今年は早く引き上げるって言ってたがで、おめさん(お前さん)がここに居るうちにと思ってのう・・・」と背負ってきたリュックの中からお抹茶の道具とお湯の入ったポットまで持参して、茶筅を回しておいしいお茶をたててくれた。キッチンテントの中で冷たい雨音を聞きながらの野点だったが、Nさんの優しい気持ちがこもったお抹茶を啜りながら、身体がぽっと温まる感じだった。実はNさんは植物、昆虫、動物と自然に関することならまさに博覧強記のナチュラリストでもある。キッチンテントの中に居る夥しい数のカメムシを目にしてNさんは、「これは貴重ですてえ。写真に撮って記録しておかんばだめですてえ」と念押しされた。(それで写したのか、今日のアップ写真である)

 Nさんと入れ替わるようにして長岡きのこ同好会のSさん夫婦がテント場に上がってきた。おやじ山のアマンダレ(ナラタケ)がようやく発生して、Sさん夫婦に採りに来てもらいたいと連絡しておいたからである。
 雨の中、そのSさん夫婦にきのこ採りをしてもらったが、それでも籠いっぱいの収穫があって喜んでもらえた様である。Sさん穴場のコガネタケも生え始めた。多少癖はあるが、うまく料理すれば美味しい食茸である。
2012年10月24日(水)曇り時々雨
おやじ山の秋2012(二人の旅)
 Mさんとは6日間、Tさんとは4日間をキャンプ場で一緒に過ごしたが、この二人とも今日でお別れである。いつものようにキッチンテントの中で4人一緒に朝飯を食って、先ずバイク野郎のTさんが自分のテントを潰して帰り支度を始めた。Mさんはずっと自分の車で寝泊りしていたので帰り支度も無さそうで、Tさんを手伝っていた。
 「それじゃあ、最後にみんなで記念撮影だね」とカミさんも下の駐車場に呼んでパチリと一枚、そしてテント場に上ってもう一枚パチリと写す。

 9時過ぎ、「ドドドドドッ・・・」とエンジン音を響かせてTさんが帰り、そしてMさんも、「ハハハハハ、長岡のカメムシを何匹か車で道連れにするけど・・・」と笑いながら、「今回も、大変ありがとうございましたあ〜」と坊主頭を丁寧に下げて坂道を下って行った。
 いつものように駐車場で車を見送ってから急いでキャンプ場の階段を登り、高台に出て、県道を走り去って行くMさんの軽自動車に大きくタオルを振り続けた。

 夜、MさんとTさんから携帯メールが届いた。Mさんはこれから一昨年の自転車放浪で野宿した岩手県陸前高田市の被災地に向かい、今夜は山形県の小国町で車中泊しているという。そしてTさんからは長野県野沢温泉で奥さんと合流したと連絡があった。
 二人とも、またそれぞれの新たな旅に向ったようである。
2012年10月25日(木)晴れ
おやじ山の秋2012(撤収開始)
 朝5時起床。いよいよ今日からテント撤収開始である。
 先ずキッチンテントの中の道具類(ガラクタ?)を全て外に出し、おやじ小屋にデポするものと車で持ち帰るものとの振り分け、そしてテントを潰して洗浄する。
 それから小屋へのデポ品を車に積み込んで見晴らし広場まで荷揚げし、ここからはネコを使ってのピストン運搬である。これまた大変な作業なのだが、幸いに午前中は好天に恵まれて仕事が捗った。

 さらに今日は、谷川からおやじ小屋まで150mほど引いてある水道ホースの撤去作業をした。そのままにして雪崩れで埋まったり流されたりしたら一大事だからである。
 大汗をかいての休憩時間に今年最後になるかも知れないおやじ山をぶらつく。ようやくいつものリンドウが咲き始めていた。山の手入れが進むにしたがってリンドウの株も増えてきて、花の少ないこの時期に目を楽しませてくれる嬉しい草花である。形のいいアマンダレが何本か生えていて、今日の夕飯用に収穫する。

 山を下りてから、ある荷物を預かってもらう市内のアウトドアショップに立ち寄ってから、いつもお世話になっているSさん宅に伺った。そして近々山から引き上げる旨の報告をし、心からの感謝を込めてお世話になった御礼のご挨拶をさせていただいた。
                    
2012年10月26日(金)晴れ
おやじ山の秋2012(不覚の怪我)
 今日は全く不覚をとってしまった。山の主としては恥ずかしくて本当はアップしたくないのだが、秘するのもフェアでないので恥を忍んで書くことにする。

 今朝も5時に起きて、今年最後の仕事となる小屋閉めと雪囲いでカミさんと一緒におやじ小屋に入った。そしてカミさんには小屋の中の掃除を頼み、自分は屋根に登って雨漏りの修理をしたあと、冬季の雪掘り(屋根の雪下ろしのこと)に来た時に使う薪作りをすることにした。

 そしておやじ山の入口に積み残したままになっているコナラの枝をチェーンソーで切り始めた。玉伐りしたコナラの幹を二の字に並べて土台にし、その間に枝を渡して左足で踏み押さえ、チェーンソーで短く切り落とすわけである。途中、枝を切り終ると同時に押えていた左足も二の字の丸太の間に滑って「ちょっと危ないなあ〜」とは思った。さらにまずいことに、小屋に戻って一息入れてから、今まで履いていた長靴を布地の地下足袋に履き替えて再び薪作りの作業に入った。
 殆どその直後である。枝を切り落とすと同時に踏み押えていた地下足袋の左足も土台の丸太の間に滑り落ちて、その上に回転しているチェーンソーの歯が当たった。咄嗟に「シマッタ!!」と思った。「不覚をとったあ!」との残念至極な気持ちが猛然と湧き上がってきて悔しくて仕方がない。そして先ずは、明日出発する年に一度の「いとこ会」の旅行のこと、それから来月早々から始まる宮崎での森林調査の仕事の不安で泣きたい思いである。チェーンソーで裂かれた黒い地下足袋の布地がみるみる赤い血で染まってきて、カミさんを大声で呼んだ。

 昔看護婦をやっていた実家の兄嫁に電話をして、市内の立川総合病院の救急外来に連絡してもらい駆けつけたのが正午少し前である。その兄嫁も病院に駆けつけてくれて、5針の縫合手術とレントゲンで骨まで傷がたっしてないことが分かってホッと胸を撫で下ろした。
 
 そして有り難いことに、たまたま再びキャンプ場にやって来たOさんには、この日から小屋閉めと雪囲いの仕事の全てをやってもらった。Oさんに全く感謝、感謝である。
2012年10月29日(月)曇り
おやじ山の秋2012(小屋閉め-エピローグ-)
昨日、毎年恒例のいとこ会の旅行から帰ってきた。医者から風呂と酒は厳禁だと言われていたが、さすが風呂は控えたものの、酒どころ秋田からやって来たいとこ連中は酒豪ぞろいで、脇で指を銜えて見ているのもなんで、万やむを得ず(?)お相伴にあずかった。最初は「あああッ、足の傷が・・・」とお猪口を出す手も控えていたが、「まあまあまあ・・・」と注がれるうちに<矢でも鉄砲でも!>という気分になってしまった。それで夜中、やっぱり足の傷がドキンドキンと疼いて、痛くて寝られなかった。
 
 いよいよ今日は、山を去る日である。ゆっくりゆっくり、まるで拝むようにして山道を歩いておやじ小屋に行った。俺の代わりにOさんがすっかり雪囲いをやってくれていて、本当に有り難かった。

 「長い間、ありがとう、ございましたあ〜!」
 ひっそりと閉じられたおやじ小屋に向って、いつものように深々と頭を下げて大声で挨拶する。そして、山を下りた。

 まだ数日山に残るというOさんに見送られてキャンプ場を発ち、途中のスキーロッジで車を降りて管理人室のドアーを叩く。そして滞在中いつもお世話になっているW場長さんとKさんにご挨拶をした。その帰り際にW場長さんから「これ、どうぞ」と頂戴したのが、地元長岡の「かまきり博士」、酒井與喜夫氏の今冬の積雪予測「冬を占う−平成24年度予想版」という資料だった。
 「大雪になりそうですね。まあ、そこそこ降ってくれる分にはスキー場としては有り難いのですが」Wさんが笑いながら言った。「おやじ山の秋2012  おわり」

(酒井博士の本資料によると、「新潟県内の根雪は例年12月のクリスマス頃。本年は12月初旬頃から本格的に荒れ始め、根雪は半月ほど早まる気配。また、昨年に続いて大雪の気配、豪雪地域も多くなる気配、備えを・・・。」とあり、細かく県内各地の最深積雪が記載されたデータには、「市営スキー場 312〜383p」とあった。初雪、根雪とも酒井氏の予測がピタリと当たって、これからの最深積雪も予測通りだとすると・・・おやじ小屋はスッポリ雪で埋まってしまう!)