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最後の更新は5月31日

2007年5月1日(火)曇り
春の山<温泉と山菜づくし>

 朝7時過ぎに横浜にいるFさんから電話が入り「これから家を出るけど・・・」と言って来たので「今日は天候が悪くなりそうなので延期したほうがいい」と伝えた。Fさんは高校時代の同級生で今回初めておやじ山を訪ねて来てくれることになっていたが、今日のあやしい天候ではお勧めできないと判断した。天気が崩れそうなので実家に行って溜まった洗濯物を洗い電話回線を借りてパソコンメールのチェックをする。友達からの楽しいメールが届いていた。

午後はこのキャンプ場近くに最近オープンしたばかりの「麻生の湯」という温泉に行く。880円とちょっとした値段だが露天風呂からは長閑な水田風景が望まれる熱い天然温泉である。夜はカミさんの収穫したウドやヤマアスパラ(シオデ)、木の芽などをゴマ味噌和え、酢味噌和え、キンピラなどにして山菜づくしの(まあ、これしか食材が無いから)料理を作った。


2007年5月2日(水)雨
春の山<寺泊魚市場>

 4時半、ウグイスの鳴き声で目覚める。寝袋に包まったまま「ホ〜ホケキョ・・・」の繰り返しを聞いているとパラパラと雨がテントを打ち始めた。そしてホ〜ホケキョの鳴き声が止んでバシャバシャと本降りの雨になった。
 山作業は中止し寺泊の魚市場に買出しに行くことにした。ホタテ・牡蠣・えび・イカなどバーベキューの食材を仕入れてテントに戻った。明日は山に娘や息子たちが来ることになっていた。

2007年5月3日(木)晴れ
春の山<賑やかな夕食>

 朝4時半に起きておやじ小屋に向かう。今日は娘と息子の家族が山に来るので小屋にデポしてある椅子やテントをキャンプ場まで下ろすためである。山道の途中で山菜採りのYさんが追いついて来た。まだ5時過ぎである。「早いなあ!」と言うと「どうせ見つかっちゃうから・・・」と照れて笑っている。
午前
7時に息子家族が車でテント場に着いた。神奈川の自宅を午前2時半に出たというから4時間半で長岡まで来たことになる。まるで暴走族のスピードである。ちょうど山菜採りに来た新潟の次兄もテント場に着いて、これから「水穴」(厳しい場所だが山菜の宝庫である)に入るという。
 午後
2時過ぎに今度は新幹線で長岡駅に着いた娘を迎えに行く。今日は4連休の初日で東京駅はごった返してなかなか新幹線に乗れなかったようだ。
 遅くなったが今日は絶好の山日和で皆でおやじ小屋に行った。
3歳になった孫も1年ぶりのおやじ山に大はしゃぎである。息子は作業小屋や物置小屋が増えたのを見て「随分ここも賑やかになったね」と言って早速自分の好物のミズを採りに谷に下っていった。
 夜はキッチンテントの中に炭火を持ち込んで豪華な海鮮バーベキュー料理である。山の空気は大分冷えてきたようだったがテント内では賑やかな夕食になった。食後はカミさんが子供たちを連れて「麻生の湯」へ。私はテントに残り、池袋からバイクでこのキャンプ場に来たという初対面の若者と酒を酌み交わす。大いに酩酊しテントに転がり込んだようだが、カミさん達がいつ戻って来たのかも朧だった。



2007年5月4日(金)晴れ
春の山<越後丘陵公園>

今日は信濃川を越えて長岡市の西にある国立越後丘陵公園という所に行った。いろいろな遊具施設もあって孫が喜ぶだろうと思ったからだ。公園の手前で大渋滞、駐車場が満車だという。幸い公園近くに友人が住んでいて急遽この家の庭先に駐車し、歩いて公園に行った。何と今日は入場料タダだという。道理で道も混んでいるわけだ。孫が4人乗りの自転車を見つけて乗りたいと駄々をこねて2時間も並んでようやく乗った。
 しかし今日は暖かな絶好の行楽日和だった。テントに戻って夕食は鉄板で焼きうどん。そしてみんなでまた麻生の湯へ入りに行った。

2007年5月5日(土)晴れ
春の山<友遠方より来る−その1>

 午前11時に長岡駅で横浜のFさんを迎える。5月1日の来訪を延期して今日にしたのである。テントサイトに寄って山支度をし、すぐにおやじ小屋に向かった。先に山に入っていたカミさんと息子の家族達をおやじ小屋の前で紹介して、早速デッキの上にFさんが持参してくれた手料理のキンピラ、肉じゃが、おにぎりなどを広げて賑やかな宴会となった。
 昼食後はカミさんがFさんを案内して「道子の斜面」と向かいの山菜山に入り、私は谷川を上流に詰めてウドやミズを採った。それから山菜山でFさん達と合流し、ちょうど旬を迎えた太い山蕗を採った。これならFさんへのいくらかの土産が出来そうである。孫が小屋の前から大声で私を呼んでいる声が峰に可愛くこだましていた。
 4時過ぎに山を下りて息子家族の車をキャンプ場で見送り、それから娘を長岡駅まで送った。Fさんも今日中に自宅に戻るという。Fさんカミさんと3人でまたまた「麻生の湯」へ行き(常連様特別割引などのサービスはつかないのだろうか?)それから長岡駅ビルの食堂で最終1つ手前の新幹線出発時間間際まで3人で談笑した。 841分、Fさん帰る。
 みんな行ってしまってテントが急に寂しくなったと思ったら、今度は仙台からS君が来るという電話が入った。全く千客万来である。

  

2007年5月6日(日)雨
春の山<バードウォッチング:オオルリの恋>

 朝食前に見晴らし広場までバードウォッチングに行った。初めてイカルの群れときれいな鳴き声を聞くことができた。「フィーフィー」と人の口笛そっくりなさえずりで、双眼鏡で覗くと何羽かの群れが忙しく木の枝に黄色いくちばしをこすりつけている。可愛い体型ではないがイカルのさえずりは見事である。
 そして午前中の山仕事の帰り道、こんどはオオルリを見た。すぐ目の前をコバルトブルーの二羽が一直線に通り過ぎた。多分オスがメスを追いかけているのだろうが(逆だったりして・・・)二羽がまるで戦闘機の編隊のように山から谷へとぐるり一周してわき目(?)もふらずに、また私の前を通りすぎる。同じコースを飽きずに何周もするのでデジカメで写してみようと待ち構えた。パチパチと何枚も撮ったが、パソコン画面で確認するとうまく撮れないものである。(そりゃそうだろう。普通のデジカメで飛鳥の姿など上手く撮れるはずがない。それがここに掲載した写真である)
 しかしオオルリが羨ましいなあ〜!もう二羽とも恋することに夢中で最も危険な動物・ヒトの姿さえまるで眼中に無いのである。「グヤジィ〜!」と心の中で絶叫する自分なのであった!!・・・? そして今日も「ホッホ・・ホッホ・・」と低く鳴くツツドリの声が遠くから聞こえていた。明日からはバードウォッチングを日課にしようと思う。(写真の青い鳥、分かる?もう1羽、後ろか前に居るんだけど・・)
 


  

2007年5月7日(月)雨
春の山<バードウォッチング:さえずりの競演>

 午前1時過ぎ、テントを叩く雨音が大きくなって目が覚め、それからウトウトと浅い眠りを繰り返す。5時半頃に雨音も止んでテントを這い出ると濃い霧である。
 双眼鏡を首に掛けて昨日から始めたバードウォッチングに出かけた。クロツグミが林の上で朗らかな大声で鳴いている。全く喉が裂けるかと思うほどのけたたましさで、声のバリエーションも実に複雑である。キビタキやオオルリに似た震えるような鳴き方やウグイスもどきの鳴き声も混じったりする。「キャランキャラン」と震え声で鳴く鳥はアカハラである。そして「ホッホ、ホッホ、ホッホ・・・」と渋い響きで峰にこだまするツツドリの声。小雨模様の天気でも賑やかな野鳥たちの競演である。

2007年5月8日(火)晴れ・夏日
春の山<山菜の宝庫・水穴>

 4時過ぎ、テントの真上でうるさく鳴くいつものウグイスに起こされる。テントから這い出すと雨の後の絶好の山菜日和である。朝食も摂らずにカミさんと「水穴」に向かった。
 水穴は広大なコゴミ畑の中に質の良いワラビが生えて、山菜採りのプロ連中が競って入るまさに山菜の宝庫である。しかしここへたどり着くのは大変である。麓から厳しい谷川を遡行するか、三ノ峠山の頂上を経由して尾根から急斜面を下ってたどり着くかである。今日は後者のルートである。黄土沢のドン詰まりでウドをいくらか採ってから三ノ峠頂上まで登り、尾根伝いに更に奥に入って水穴へ下る。途中オオヤマザクラの大木が浅緑の樹海の中に一本、その艶やかな桜色に息を呑む思いである。しかし肝心の水穴のワラビはまだ時期が早く出初めの感じだった。盛期までには後3〜4日か?それにしても今日は25度を越す夏日で山の斜面での休憩時にはシャツを脱いで裸になるほどだった。ワラビは全てテント場で塩漬けにした。

  
   オオヤマザクラ(別名:ベニヤマザクラ)         山菜の宝庫「水穴」(広大なコゴミ畑が広がる)
  
                        今日の収穫

2007年5月9日(水)晴れ
春の山<アンニンゴ(杏仁香)>

 4時半起床。双眼鏡を持ってバードウォッチング(鳴いている鳥を見つけるのはなかなか難しいのでバードリスニングか?)に行く。今日も上天気の予報で嬉しいかぎりだが、野鳥の囀はまばらで、何となく山が静かである。天気が良いと野鳥も嬉しくてはしゃぐのかと思っていたが違うようだ。先日の雨の朝のほうが余程賑やかな鳥のさえずりだった。
 それでも今朝は、いつも早起きのウグイスがあっちからもこっちからも「ホ〜ホケキョ!」と静かな山にこだましている。そしてクロツグミの高らかなさえずり!林の高い所で「キョロッ!キョロッ!」と2、3回鳴いてからバリエーション豊かに朗らかな調子でさえずる。オオヨシキリが巻き舌で鳴くような声があり、ウグイスの最後の「ケキョケキョ」の声があり、キビタキの「ルル、ル〜!ルル、ル〜」の震え声が混じりと、全く一人(一鳥)何役の芸達者である。
 今満開のウワミズザクラの中で珍しくまだ蕾の樹があったのでアンニンゴ(蕾の塩漬け)用に帽子一杯摘んで来た。山と渓谷社の植物図鑑には「新潟県では・・・ウワミズザクラの蕾みの塩漬けをアンニンゴと呼ぶ」と書いてあるので越後特有の食材なのかもしれない。
 午前中に昼飯のインスタントラーメンと携帯コンロをリュックに詰めておやじ小屋に向かう。一昨年の雪で折れたまま放っておいた杉を
3本切り倒して小屋横の倉庫を修理するための柱材を作った。午後5時下山、キャンプ場に戻ると仙台からのS君が到着していた。
   

2007年5月10日(木)曇り〜夕方から風雨
春の山<おやじ山の花の移ろい>

 6時、ちょっと時間が遅くなったが日課になったバードウォッチングに行く。曇り空だが空気が冷えてキリッとした朝である。見晴らし広場への尾根道を登り、昨日クロツグミが鳴いていた太いホオノキの梢に目を凝らすと今朝はクロツグミの代わりにエナガが何羽か止まって「ツリュリュ、ツリュリュ」と独特の鳴き声ではしゃぎ回っていた。今朝も野鳥の声が少ない静かな山である。
 今日は
510日。暦の上では立夏も過ぎて、そろそろおやじ山の春が終わりに近づく季節である。この時期のおやじ山の花の移ろいを書いておこうと思う。
 先ず今の山で目立つ白い花は、ウワミズザクラとマルバアオダモである。いずれも遠くから見ると綿毛のようなふさふさとした感じの美しい集合花である。そして明るく開けた斜面にはミヤマガマズミの可愛いらしい玉花が盛りである。ナナカマドはどの樹も今年はびっしりと白い花をたくさんつけている。さぞかし秋には豪華な実生りになるだろう。目立たないがミヤマザクラも幾分暗い森の中でひっそりと白い花を咲かせている。
3月下旬から4月上旬の春一番の白い花、タムシバやオオカメノキ(ムシカリ)の輝くような白に代わって、この時期は落ち着いた白が新緑の中で佇んでいるといった風情である。今はタムシバもオオカメノキも花の時期を終えて、春の陽を一杯に浴びながら大きな葉をのびのびと展開している。さらに白い花では、ホオノキの花が枝の先にラグビーボール形の蕾を見せ始めた。
 赤やピンク系の花では、ヤマツツジが満開である。そして麓から山麓にかけて徐々にタニウツギが賑やかに駆け上ってきた。この花が咲くとワラビの盛期である。それからヤマザクラの白い花が散り葉桜となったこの時期、代わってオオヤマザクラ(ベニヤマザクラ)が奥山で満開である。浅緑の樹海の中にこのオオヤマザクラの明るいピンクがぽっかり浮かぶ姿を見ると、つくづく大自然の中に身を置く己の幸せを感じてしまう。麓ではちょうど遅咲きの八重桜が道端に花びらを撒き散らして絢爛の一時を閉じた時期である。
 紫系統ではユキグニミツバツツジがしぼみ始めて、杉の大木に巻きついたフジが霞んだような紫色を見せ始めた。未だ花の盛期には
1週間程かかるかもしれない。
 おやじ山の春は次第に緑が濃くなって、いよいよ夏へと向かう端境の時期である。

「森のパンセ」に本文と合わせて花の写真を載せました。ご覧下さい>


2007年5月12日(土)晴れ
春の山<小屋作り>

 4時半に起きて日課のバードウォッチング。そして今日はまさに五月晴れの好天で、昨日信州から車でやって来たOさんも誘って皆で昼食持参でおやじ山に入る。Oさんとカミさんは山菜採り、私は杉を伐り出して物置小屋の梁材を三本作る。S君に手伝ってもらって土中に埋め立てた柱にこの梁を乗せ、カスガイを打ち込んで小屋の骨組みを作ったが・・・出来栄えは、可なり不満である。もう一度作り直しをしたほうが良さそうである。
 夜は山菜料理に飽きたS君のたっての要望で、キッチンテントの中で賑やかな焼肉パーティーをした。久々の動物性タンパク質の大量摂取で力がついたような、同時に呑んだ大量の酒で筋肉がふやけて弱ってしまったような・・・どっちだろう?

2007年5月14日(月)晴れ
春の山<友、遠方より来る-その2>

 昨日は一日中強風が吹き荒れた。全国的にも凄かったとニュースが伝えていた。今日は幸い天候が回復して先日雨で山菜採りを断念したKさん夫婦が再挑戦で山に来る日である。
 今日も4時半に起きてバードウォッチング。最近の目覚めも野鳥のように正確になった。そして山道で写真を撮ろうと思って愛用のデジカメを取り出すと「・・・?」液晶画面にオーロラ模様が走っている。シャッターを押してモニターで確認してもオーロラしか写らない。カメラが壊れた。今日以降の日記は、残念ながら画像なしである。(後日メーカーに修理の電話を入れると「リコール対象の故障で、無償にて修理をさせていただきます。引き取り、お届けも無償でございます」と可愛い<ま、どうでもいいけど・・・>女性の声である)
 9時前にKさん夫婦がキャンプ場に着いた。入れ替わるようにOさんは信州に帰って行った。Kさんの差し入れは、日本酒2本(長岡と栃尾の銘酒)、伊豆の名産アジの干物とワカメ、自宅菜園のサヤエンドウ、それと昼食用のおにぎりと随分の奮発である。(もっとあったかも知れない)
 カミさんの案内でファミリーランドの菜の花畑の上でワラビを採り(こんな所にワラビ場があったとは知らなかった。いつの間に見つけたのだろう?)それから本命のおやじ山に入ってウドやフキ、ワラビなどもいくらか採った。小屋に戻って収穫物をデッキの上に並べてみると、まあまあの量になっている。山のみやげが出来てほっとした。
 キャンプ場に戻ってKさん夫婦は「山菜が山に帰らないうちに・・・(山菜を手早く処理するたとえ)」と午後3時に伊豆に帰って行った。今回はおやじ山を楽しんでくれたようで嬉しかった。
 
 

2007年5月15日(火)曇り〜雨
春の山<キビタキの美声>
 今朝はテントの周りの野鳥の声が賑やかだった。双眼鏡を持って足音を忍ばせながら鳴き声の方に目を凝らす。赤松の枯れ木の梢でキビタキのオスが卵黄色の喉を見せて可愛く嘴を開いている。高い笛の声で「ピョーピョー」と鳴いてから「チョッチョリーチョッチョリーチョッチョリー」と少し震えるような美声で何回も繰り返す。秋の夜に鳴く虫、スイッチョンに似た鳴き方もする。別の赤松の梢でもまたキビタキの美声。これも双眼鏡で見つけることが出来た。バードウォッチングも大分慣れてきたようだ。
 午前中は物置小屋の手直し。午後は雨が強くなって作業を中止し実家に洗濯に行った。
2007年5月16日(水)快晴
春の山<再び水穴へ>

今日は今季まだ行っていない懐かしの山菜場所「黄土」へ入る予定をしていたが、朝6時過ぎに次兄から電話が入り「水穴」へ一緒に行かないか、という。それで次兄の到着を待ってカミさんと3人で8日ぶりの水穴入りをした。今回も三ノ峠山の頂上から尾根道伝いに歩いて水穴へ下るルートである。
 広大なコゴミ畑も緑が濃くなって背丈も逞しく伸びている。このコゴミ畑の中に質の良い太いワラビが生えているのである。山菜シーズンもそろそろ終わりで、かなり人が入った跡があってその採り残しを拾うようにしてポツリポツリと折り採っていく。山菜リュックを下ろして、タオルで汗を拭きながら向かいの鋸山やその前山の風谷山を見ると、緑のモザイク模様の濃淡が以前とは比較にならないほどくっきり浮かび出て、もはや夏山の様相である。今日は雲一つない晴天で、収穫は少なかったがとても気持ちの良い山日和だった。
 山を下りおやじ山の最後の恵みを宅配便にし、友人への贈り物にした。




(ケイタイカメラの画像、結構写るんだ)
2007年5月18日(金)晴れ
春の山<懐かしの「黄土」>

6時過ぎにカミさんと「黄土」(おうど)に向かった。今期初めて行く山菜場所だが、毎年「黄土」には必ず入る。いつもどっさりとワラビが採れる場所だが、それ以上にこの場所は私にとってとても大切な場所なのである。それは、ここに来ると懐かしいおやじとお袋に会える気がするからである。私にとってそんな場所はこの「黄土」以外には無い。実家に立ち寄ろうと、両親の眠る墓の前に立とうと、この「黄土」で感じるおやじとお袋への想いの近親感には遠く及ばない。
 ガキの頃、いつも山菜シーズンになると両親に連れられてオオド沢を詰めてここまで登り(今思うと、よくぞこんな険しい沢を小さい子ども時分に登ったものだと感心してしまう)、この「黄土」でリュック一杯のワラビを採った後、斜面に並んで座って眼下に広がる長岡の町を眺めながらおにぎりを頬張ったものである。
 もうワラビの旬は過ぎたと思っていたが、「黄土」には質の良い太いワラビが残っていた。おやじやお袋が、私がここに来るまで残しておいてくれたのだと思った。例によってカミさんは親の仇とばかりにワラビを採り集めていたが、私は途中で止めていつもの斜面に腰を下ろした。そして遠くに広がる町の風景を、遠い子どもの頃に見た風景と重ね見ながら「黄土」にこだまするウグイスの声を聞いていた。涙が少し出て、緑の風景がぼんやりと滲んだ。
 今日は、朝出掛ける前にアオバトの鳴き声を聞いた。「アオアー、アオアー」と野鳥とは思えない低いターザンの雄叫びの声である。
 黄土から帰り、午後はおやじ小屋に行って修理中の物置小屋のトタン屋根を張った。それから屋根の上に登り、トタンの上に溜まった杉の枯れ枝を取り除く作業をした。今日は体を使い過ぎてくたくたに疲れ果てた。
森のパンセに「懐かしの黄土」と写真を載せました。こちらもご覧ください>

2007年5月21日(月)晴れ
初夏の山<おやじ小屋の屋根張り>

 まる2日間雨が降り続いた。昨日は実家に寄って修理が済んだデジカメを受取って嬉しかった。
 今日はようやく晴れて今までサボっていたおやじ小屋の本格的な修理に取り掛かった。それでも午前中はぐずぐずとワラビの広場の中にたくさん生え出したヤマユリの株のために下草刈りをし、それからようやくおやじ小屋の屋根に登ってトタンの上に載せていた重石やブロックを下に放り投げ、釘打ちをした。
 4時終了。やっと懸案の屋根張りを終えてほっとした。

2007年5月22日(火)晴れ 夏日
初夏の山<おやじ小屋の土間作り−第1日>

 7時に次兄がNさんを連れて山に来た。Nさん好みの蕗を採りに来たという。黄土にワラビが出たと伝えたらそっちにも行くという。カミさんが密かに今日黄土に行く予定をしていたらしく、機嫌を損ねてしまった。それでもカミさんは「私、先に行って来よう!」とクマ除け(今頃クマなど出てこないと何度も言っているのに)の携帯ラジオを持って一人で黄土に出かけ、私はおやじ小屋の修理に向かう。途中高校の先輩Eさんに会った。
 小屋の上でフキを採り終えた次兄とNさんが茗荷の新芽を摘んでいた。味噌汁などに入れるといい香りがして美味しいという。次兄達は結局黄土には行かず
10時頃には山を下りて行った。
 おやじ小屋の土間の修理に取り掛かる。昼食をインスタントラーメンで摂ってから、休憩を見晴らし広場まで行って展望台の上で昼寝をする。夏日で暑く、紫外線もかなり強かった。
 午後は土間のレベルをとりながら手製の土固めでドスンドスンと打ち下ろして床を固めていく。可なりの重労働である。
4割程出来たが、明日の作業に残して4時過ぎ下山する。
 カミさんは黄土で一杯のワラビを収穫したようだ。さすがというか、何というか・・・(言うと叱られそうなので言わないけど)

2007年5月23日(水)晴れ、夏日・今年の最高気温
初夏の山<サンコウチョウ/土間作りー第2日>

 今日もおやじ小屋の土間作りで朝食を食べてすぐ小屋に出かけた。山道で友人から携帯メールが入ったので途中の木陰で休んで返信した。朝から強い日差しが照りつけていたが、木陰に入ると爽やかで涼しい風も吹いてとても気持ちが良い。途中の山道でリスが横切った。
 小屋に着いて早速残りの土間作りをし、昼食。食べ終わって休んでいると「・・・ホイホイホイ!」と独特の野鳥の鳴き声がおやじ山の入り口付近から聞こえてきた。そ〜と近づくと尾の長い鳥である。「あ!やっぱりサンコウチョウだ!」と分かった。オス・メスのつがいが森の中腹あたりで動いている。サンコウチョウの名前は三光鳥で、囀りの前奏で「ピョロピ」と鳴くのだがこれが「月日星(ツキ・ヒ・ホシ)」と聞こえるので
3つの光の鳥、即ち三光鳥と命名されたのだと言う。こんな命名をする人はよほど複雑なモノの考え方をする人に違いない。しかしおやじ山にサンコウチョウがいると分かって嬉しくなった。貴重なおやじ山の生物がまた1つ増えた。(参考<サンコウ>までに、サンコウチョウの巣は樹皮をクモの糸で絡げて作ってあり、表面はコケを張りつけたコーテング仕上げで実に洒落ている。このコケのコーテングで巣を目立たないようにしているのである)
 土台ブロックの隙間を埋めるためのコンクリートパネルも張った。今日はここまでの作業だったが、このときぼんやりしていてカナヅチで親指を叩いた。痛かった。
 帰り、見晴らし広場で休んでいた時、足の不自由なご夫婦が杖を突きながら下から登って来た。「こんな遅い時間なのに・・・」と思ったが、ゆっくりゆっくり二人で歩いてきて一目で「実に仲がよい夫婦だなあ!」と分かった。
 

2007年5月24日(木)
初夏の山<モリアオガエルの初産卵>

 今日は午後1時過ぎに仙台からカミさんの甥っ子のM君が仕事で長岡に来て、少し時間があるのでおやじ山に来たいという。
 それで私は先に小屋に出かけてM君を待つことにした。小屋に着いておやじ池の縁を見るとモリアオガエルの白い泡の塊がある。今年のモリアオガエルの初産卵である。一昨年に池の縁の立ち木を伐ってしまってモリアオガエルに気の毒なことをしてしまった。それでもおやじ山のお土産にM君に見せてあげられるなあ、と嬉しかった。
 小屋作業は以前買っておいたモルタル1袋を水で練ってブロックの隙間を埋めた。ちょうど
25キロのドライモルタルを使い切って完了する。
 そして囲炉裏の補修をしているとM君がカミさんに案内されておやじ山に入って来た。ワイシャツとネクタイ姿である。おやじ山にこんなスタイルで入って来た人は初めてである。夕方から仕事があるというので
2時間弱の滞在で山を下りて行った。
 今日も午後
1時過ぎからおやじ山の入り口付近でサンコウチョウの鳴き声が聞こえた。
 

2007年5月25日(金)曇り、夜はたっぷりの雨と風
初夏の山<ホトトギス鳴く>

 4時半過ぎに起きると今にも降り出しそうな空である。早めにおやじ小屋に行って雨対策をしなければいけない。
 キビタキがいつもの杉の樹の天辺できれいな声でさえずっている。今どきの野鳥は殆どがペアを組んで仲良く?(かどうかは分からないけど)飛んでいる。ヒヨドリ、キビタキ、オオルリ、ヤマガラ、エナガと皆つがいで、生き物の世界では自然にこうなるんだと妙に感心する。
 エゴノキの白い蕾が目立ち始めた。
数日前のちっちゃな緑色の蕾がどんどん膨らみ始めて徐々に白色を目立たせてきている。
 そして朝ホトトギスの鳴き声を聞いた。今年の初鳴きである。「♪ホ〜トトギ〜スはやもきなきて〜♪」でいよいよ夏の季節到来である。
 小屋に行って囲炉裏の補修、というよりは作り直しをする。全て掘り取ったレンガをコンクリートを練る船の中に入れてタワシで汚れを落とす。地震で何個かが割れていた。そして囲炉裏拡張の穴掘り。85センチ四方で深さ40センチに土を掘り取って底にブロック8個を敷く。
2時半に作業を止めて下山。夜はたっぷりの雨が降った。夜半、風が強くなる。
  

2007年5月26日(土)晴れ
初夏の山<雲/モリアオガエルの産卵>

 昨日初鳴きのホトトギスが夜明け前から頻りに鳴いていた。まだ午前4時前でこんなに早く鳴き出す野鳥も珍しい。
 テントの外に出ると朝日が昇る前の青空に素晴らしい筋雲が浮かんでいる。咄嗟に、会社時代、出張でアメリカのデンバーに行った時にコロラド山脈の上にたなびいていた雲を思い出した。
 キャンプ場のヤマツツジの色が初期の頃の花色より随分濃くなっている。この花は、時期が遅くなるに従って濃くなる性質のようだ。
 朝食前、双眼鏡を持って散歩を兼ねたバードウォッチングに行く。作業道路下の谷川べりを歩いているとアオバト、ホトトギス、ウグイス、そして散歩の帰り道で「キョキョキョ!」と鋭く鳴くアオゲラを見つけた。ヒヨドリが高い杉の木の天辺で誇らしそうに囀っていた。
 瞑想の池のトチノキに今年もモリアオガエルが卵を産んでいた。そして池の中を覗き込むと背中に抱きついたペアのモリアオガエルがたくさんいる。池の縁では泡まみれになって産卵中のモリアオガエルを見つけた。何とメス蛙の背中にオス
2匹が2段重ねに載って、目を凝らすとその脇にも目を光らせた1匹がいる。蛙の産卵も大変な世界だが、実に貴重な写真が撮れたと思っている。
<後日「おやじ山の生き物たち」に写真を何枚か載せます>
 午前中はホームセンターでレンガ20個ほどとドライコンクリート
1袋を買い一輪車で小屋に荷揚げする。午後は囲炉裏のレンガ組のシュミレーション。帰り道、見晴らし広場から長岡の街を望むと黄砂で何も見えない。こんなひどい黄砂も珍しい。
 

 

  

2007年5月27日(日)薄曇り
初夏の山<囲炉裏の完成と薪置き場作り>

 朝5時半、麓の村のYさん家の裏庭で二度目の筍掘りをする。明日からカミさんが懇意にしていつも野菜を安く分けてもらっている、藤沢の自宅から車で20分ほどの農家のKさん夫婦がおやじ山に来ることになっていた。そのKさん夫婦に筍料理を振舞ってやろうと思ったからだ。何とKさんは今回の旅行のために新車を買った。ゆめゆめ対応に粗相があってはならない。
 帰って来て炊事場で筍の処理をしていると、今朝も美しい野鳥のさえずりが聞こえる。飛び立つ瞬間、あの鳥だなと見当をつけたが何の鳥か分からない。大きさはヒヨドリ位だった。さえずりは「ピピピ・ピ〜!ピピピ・ピ〜!」と笛の声で音階は「ラソファ・シ〜!」でシ〜!が上がる。
 午後雨の予報なのでおやじ小屋に行って早速囲炉裏の組み上げをする。ドライ生コンは
20キロを練って使う。囲炉裏完成! 残りのコンクリートで土台の仕上げ塗りをして、今回予定していたおやじ山での作業を全て完了する。新たに薪置き場を作った。
  

2007年5月28日(月)曇り
初夏の山<友遠方より来る−その3>

 朝640分、携帯電話に「小千谷の道の駅<ちぢみの里>で休んでいます」とKさんから連絡が入った。5時には高速道路を下りて時間を潰していたようだ。早速迎えに行ってテント場にお連れした。「少しはテントの中で眠ったら?」と勧めてもお二人とも気が立っているせいか「いや、すぐおやじ山に行きたい」という。お二人とも大の山好きで、ましてや今回のように2泊3日の旅行などついぞしたことが無かったという。毎日の野菜の手入れと出荷で家を空けることなど出来なかったようだ。
 奥さんとカミさんはワラビ採りで山菜山に入り、ご主人はおやじ小屋の脇に放っておいた木屑の山を燃やして片付けてくれた後で、今度はシャベルやカケヤ、鋸を物置から持ち出して下の谷川までの斜面に階段を作ってくれた。私はそのお手伝いで、チェーンソーで階段のステップ用のミズキを切り倒したりヤマグルミの木を
伐って階段の手すりの材料を作った。遠路、それも夜中じゅう車を飛ばして来たというのに、直後のこの働きぶりにすっかり恐縮してしまった。夜はKさんが持ってきてくれた大量の新鮮野菜と柔らかくて実に美味しかった高座豚のバーベキューで大いに盛り上った。
 
 

2007年5月29日(火)快晴
初夏の山<最後の黄土>

 8時にKさん夫婦を連れて黄土に行く。もう山菜シーズンは過ぎていたが黄土に行けばいくらかは残っているだろうと思った。そして私自身、今年の黄土に別れを告げてきたいとの思いもあった。Kさん夫婦はこんな山奥まで来て山菜採りをしたことは無かったようで、「今日は冒険だねえ」と言いながら残りのワラビをせっせと採っていた。上天気で長岡の街が一望である。そして私はいつもの斜面に座って今年最後の黄土に名残を惜しんだ。
 黄土からの帰り道、「二人静」の群落を見つけて写真に撮る。キャンプ場に帰って友人からのメールを開いてビックリした。
 みんなで「麻生の湯」へ行ってから、夜は再びバーベキュー料理。何しろKさん持参の野菜の量が半端でなくどっさりあって、食べても食べても・・・
 

2007年5月30日(水)晴れ〜夜は土砂降りの雨
初夏の山<山古志の棚田>

 午前中Kさんご夫婦を山古志村に案内する。山古志は新潟県中越地震で大被害を受けた村で今だ完全復旧には至っていない。Kさんの奥さんが棚田が好きで、以前山古志のテレビ中継で復旧途中の棚田を見て是非今回行ってみたいと言う。
 蓬平温泉へのルートを通って山古志に入った。今日もよい天気で日差しも真夏の感じである。道路はまだ所々で工事中で地震の後遺症を見せている。そんな道路脇に車を停めては棚田をバックに記念撮影をした。
 昼は小嶋屋で名物のへぎそばを食べ(Kさんにご馳走になってしまった)テントに戻って午後
1時過ぎにKさん達を見送った。
 いよいよ明日はテントを畳む日である。夕方からは雨の予報で気ぜわしく帰りの準備を始めた。

2007年5月31日(木)
初夏の山<山を去る日>

 雨の中でテント場引き上げの作業。私は1人でおやじ小屋の閉じ支度に行く。1時間程小屋の中や周りのトタンの囲いを直して、いつものように最後に大声で「ありがとうございました!」と帽子を取っておやじ小屋に挨拶した。35日間のおやじ山が終わった。
 初夏のこの頃のおやじ山で目立つ花を記しておこうと思う。白い花は何と言ってもエゴノキとヤマボウシが目立つ。今年は例年になく花付きが賑やかである。ちょっと異常と言ってもいい。昨年の花や実の極端な不作の反動であろうか?草花は野アザミが咲き、花木ではヤマツツジが次から次へと花を付けている。
 帰りは17号線をひた走って途中猿ヶ京の「満天の湯」で少し休んだ。露天風呂から立ち上がって眼下を望むと赤谷湖が真っ青な水を湛えていた。いい風呂だった。
 午後
11時半藤沢の自宅に到着。
 

 


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