2015年11月22日(日)曇り |
南九州の山旅 |
一昨日(20日)の夜、鹿児島から帰宅した。毎年続けている森林調査の仕事で、11月11日の朝、羽田から鹿児島空港へ飛び、、鹿児島県内を中心に一部熊本、宮崎の山々まで渡り歩いた。相棒はいつもの気心の知れたKさんで、今回も仕事はもちろん、宿の手配から何から何まで本当にお世話になった。お蔭で無事に、そして南九州の各地で、たくさんの印象に残る思い出を心に刻むことができた。
Kさんと一緒の時は大概が晴れ続きで、「Kさんは晴れ男だなあ~」といつも感心していたのだが、今回はどうした訳か雨の日が4日間もあった。18日には耳をつんざく程の凄い雷雨が鹿児島地方を襲って(大雨洪水警報が出た)、やむ無く途中で仕事を中断した。それで、19日には前日のリカバリーで同じポイントに挑戦し、そして素晴らしい晴天となった20日最終日には、目を見張る100年超の見事なヒノキ林に入って、無事、予定通りの調査を終えた。
今回の仕事で1600本以上の樹木に抱き付(?)いた。(胸高直径の計測で) Kさんから「関さん、腕が太くなったんじゃないですか?」と笑われたが、事実そうかも知れない。
そんな筋肉疲労と山歩きの疲れを癒してくれたのが、Kさんが小まめに手配してくれた各地の温泉宿の湯と、今回コンビニで買った「リポビタンD」(!)である。
先ず温泉だが、新燃岳の山麓にある霧島新燃荘の新湯温泉。(有毒ガスと効能が強すぎて『15分以上入浴禁止』と看板が出ていた) そして俺が今まで出会った温泉でトップクラスに入れたい鹿児島県出水市にある湯川内温泉「かじか荘」。(3泊したが、できればずっと居たかった) また霧島市妙見温泉と安楽温泉。(安楽温泉は最終日に立ち寄った。もったいない程の湯量の「うたせ湯」を浴びて、脳天クラクラ、身体フラフラとなって、たった200円だった) さらに宮崎県えびの市の京町温泉。それぞれ入った温泉の効能書きをシャンプルしたら、万病が治って病気などなりっこ無いのである。
霧島新燃荘 新燃荘「新湯温泉」 湯川内温泉「かじか荘」 かじか荘のネコ
かじか荘のぬる湯 妙見温泉の竈
中でも忘れられないのは、やはり3泊した「かじか荘」の温泉である。アルカリ性の無色透明なぬる湯で、湯治客が湯船で交わす鹿児島弁を聞きながら旅情に浸り、じっくり湯につかるのである。
湯殿は2つあって、下の木の風呂と坂上の石の風呂がある。それぞれの風呂場の壁に<いにしえの 殿の湯殿は エメラルドグリーン>と、美しい透明な泉質に感動のあまり詠んだと思しき歌が掲げられてあった。季語はなく、字余りでもあるが、素直に情景を切り取った名歌なのであろう。
このエメラルドグリーンのぬる湯には毎朝入った。九州の夜明けは遅く、まだ未明の時間に下駄を鳴らして坂上の風呂に行くと、ひっそりと一人風呂が楽しめるのだった。
湯船の深さは立って鳩尾(みぞおち)程もあり、湯船の底からは風呂の中で屁をしたような気泡がプクプクと上がってきて、実に和むのである。
板1枚隔てた隣の女風呂で、密やかな水音がする。じっと湯船で目をつむりながら、「隣の女は、ルノアールが描くバラ色の肌の少女のようだろうか?」、「セザンヌの絵にある白い肌の美女のようだろうか?」、はてまた、「バスタブでくつろぐボナールのモデルのような女だろうか?」などと想像してみるのである。相方の湯治客の女性がガラガラと隣の風呂に入って、二人で豪快に笑い合うまでは・・・。
毎日宿を発って、先ず寄る所がコンビニである。ここで昼飯用のおにぎりと飲み物を買う。疲れが出始めた何日目かに、試しに「リポビタンD8」も買った。瓶のラベルに『つらい疲れに8』と書いてあって効きそうだった。そしたらKさんも「わたしも買おう」と手に取ったのが「リポビタンD11」だった。若いのに俺より3ランクも上の瓶である。Kさんのラベルには『現代社会の疲れにD11』とあった。山に入ってもKさんは現代社会に疲れているのだろうか。
その翌日、Kさんに「リポビタン、効いた?」と尋ねると、「効きました!」と元気な答えが返ってきた。それで今度は朝のコンビニで「リポビタンD11」を奮発して買った。そしたら「わたしも・・・」とKさんが買ったのが、何と!「リポビタンローヤル」である。瓶のシールには単に『1日の疲れに』とさりげなくコピーしてあるが、ラベルが濃い金色で、瓶も「D11」の下品な大きさよりは品良く小さめで、ギュッと成分が凝縮されているようで、実に効きそうなのである。
そして翌日は、俺もついに「リポビタンローヤル」を泣く泣く奮発した。この日Kさんは、「滋養強壮剤も毎日連続して飲んでは、あまり効かなくなるらしいですよ」と呟いて、買った様子がない。「えェ~!やっとKさんに追いついたのに」と心で叫んで、焼けのヤンパチでグッと飲み干した。
忘れられない風景があった。仕事の行き帰りで見つけて寄った郷愁を誘うローカル線の古い駅舎。明治時代に建てられたという肥薩線の嘉例川駅では、ホームまで出てみると偶然ディーゼル列車が入線して感動してしまった。そして同じ肥薩線で鹿児島から熊本県に入って直ぐの、ループとスイッチバックの鉄道の駅、「大畑(おこば)」。(ちょっとこうは読めない)
そして、苦しかった仕事を終えての帰途、たわわに実ったミカン畑から望んだ美しい八代海とその先に浮かぶ天草の島々。出水の田圃で観た夥しい数のナベヅルの圧巻。さらに出水郡長島に渡って息を呑んだ「黒之瀬戸海峡」。観光案内の看板には「一に玄海、二に鳴門、三に薩摩の黒之瀬戸といわれ、日本三大急潮のひとつ」と説明書きがあった。
嘉例川駅舎 嘉例川駅のホーム 大畑(おこば)駅
大畑駅舎 スイッチバックの路線 遠く八代海と天草 出水のナベヅル
出水のナベヅルの群れ 黒之瀬戸海峡
そして最終日の仕事に向かう朝。朝靄の立つ道路を分けて進む車の前方に、九州の大地を昇る真っ赤な朝日が迎えてくれた。10日前に横浜YCATから羽田空港に向かうバスから見た出発の朝の風景と、10日後のこの朝の風景と、違いこそあれ何やら胸の高鳴りは同質のように感じられるのだった。
出発の朝 最終日の朝 朝靄のえびの高原 |
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