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2013年4月15日(月)晴れ
おやじ山の春2013(プロローグ:山入りの日)
 昨日の午後藤沢の自宅を車で出発して、今日の午前8時におやじ山に入った。自然観察林の作業道路やブナ平分岐からおやじ小屋へ向う山道には、まだ所々に雪が残っている。しかし昨年よりは春の雪解けは幾分早いようだ。

 今日は車を停めた長岡市営スキー場の麓からおやじ小屋まで、背負子に寝袋やら当面の所帯道具やら食料、酒と、自分でも呆れるほどの荷物を括り付けて4往復して荷揚げした。好天に恵まれた山入り初日とあって、びっしょり汗をかきながらもやはりウキウキと嬉しくて仕方がなかった。

 今年は、この時期にマルバマンサクがまだ咲いていた。例年ならとっくに咲き終わっている花である。そして俺が大好きなタムシバの花が今や満開!今年はおやじ山のあちこちにこの花が目立って、目覚めたばかりの山で存在感を際立たせている。おやじ山が誇るカタクリとショウジョウバカマは咲き始めたばかりだった。

 それにしても今日はギフチョウが何頭もヒラヒラと出迎えてくれた。春の女神とはよく言ったもので、事実この蝶に出会うと「ああ、春が来たなあ〜」とつくづく思うのである。今年のギフチョウの出は、例年よりは10日ほど早いようである。

 夜、おやじ小屋の西斜面からフクロウの鳴き声が聞こえて来た。今年もホオノキに掛けた巣箱に営巣してくれるだろうか?
 
 
2013年4月17日(水)曇り、夕方から雨
おやじ山の春2013(山菜山はまだ・・・)
 早朝からクロツグミがけたたましく囀っている。まったくこの鳥は森のエンターテナーと呼んでもいい程の名演奏家で、他の野鳥のように同じ調子で繰り返し鳴くということが無い。誰に聴かせようとしているのか、朝早くから忙しなく山菜山に響き渡るクロツグミの鳴き声を耳にすると、思わず噴き出さずにはいられない。
 クロツグミが息をついでいる間に、今度はウグイスが「ホォォォォ〜ケキョ・・・」と実にのんびりと囀った。そして「昨夜はフクロウが鳴かなかったなあ」と思い出して、少し心配になった。

 昨日は雪解け水でビショビショになっている地面に溝を掘って水路を作ったり、ヤマユリの広場に植えた20本程のブナ苗の雪起こしをやったり、伊豆のKさんに作っていただいたミツバチの巣箱を設置したりと忙しかったが、一息ついてから小屋向かいの山菜山にも入ってみた。谷筋にはまだ雪が随分残っていて真っ黄色のフキノトウが雪解け後の大地から顔を出していた。コゴミの時期は、まだ先である。

 そして今朝も食事前に山菜山の斜面に取り付き、フキノトウと出始めのコゴミをいくらか採った。自分の食材用と麓に下りてお土産で送るためである。
 午後、下山する。
2013年4月21日(日)雪〜雨
おやじ山の春2013(神奈川からの客人)
 昨日(4月20日)から東山ファミリーランドのキャンプ場がオープンした。そしてグッドタイミングで昨日、今日と森林インストラクター神奈川会のTさんとNさん、そしてNさんのご両親がおやじ山を訪ねて来てくれた。TさんもNさんのご両親も以前は越後で暮らしていたことがあり、その縁もあって数年前からおやじ山に足を運んで下さっていた。今回の目的はズバリ、おやじ山が誇るカタクリの大群落を見るためである。

 昨日は雨が来る前に皆でおやじ山に入り、寒さで花姿も萎み加減だったが何とか自慢のカタクリ群落をお見せすることができた。山からの下山途中、望遠カメラで野鳥を撮っていたHさんという人に会った。初めて挨拶を交わした方だったが、このホームページの訪問者だと名のられて粛然と恐縮してしまった。
 そして昨晩はNさんが新調してくれた七輪にガンガン炭を熾してキッチンテントに持ち込み、おやじ山風越後雑煮と初物のコゴミのお浸し、皆さんからの差し入れ品の日本酒などで身体を温めながらの楽しい宴だった。


 昨日の夕方から降り始めた雨が夜半から冷たいミゾレに変わり、今朝は目を覚まし二日酔の頭を振り振りテントを這い出ると、何と外は雪景色!5pほどの積雪である。
 そんな中でNさんが早々と起きて七輪に炭を熾し、温かいコーヒーを入れてくれたり朝食の雑煮を作ってくれたりと全く有り難かった。

 今日は朝からミゾレ混じりの雨で、思案の末に皆さんを県立歴史博物館に案内することにした。ここには縄文時代の人々の暮らしを見事に再現したコーナーや、昔懐かしい雁木通りのある町並みの雪下ろし風景など、越後出身の皆さんには見ごたえありと考えたからである。

 館内で昼食を摂ってから、関越道の南長岡越路インターの近くでTさんNさん達と別れた。一人キャンプ場に戻り、再び七輪に火を熾して手を炙りながら、遙々おやじ山に来て下さった遠来の友人達には生憎のこの空模様で、全く相済まない気持ちだった。
 
2013年4月28日(日)晴れ
おやじ山の春2013(最高の贅沢)
 昨日、一昨日と氷雨と雹に見舞われ、まるで冬に逆戻りしたような寒い日が続いた。そして一転、今日は爽やかな晴天である。悪天候で鬱屈していた気持ちもぱ〜と晴れ上がって、5時前にテントを這い出ておやじ小屋に「出勤」した。

 途中の山道では早春に咲くオクチョウジザクラがまだ咲き残り、タムシバと競うように咲くムシカリ(オオカメノキ)が白い装飾花を綻びさせ始めた。キタコブシが春の青空に映え、ハウチワカエデが紅色の花を揺らせ、象牙色のトキワイカリソウの花がひっそりと咲き、早くもオオイワカガミがピカピカの新葉の間からピンクの花姿を見せた。さらに沿道にはマキノスミレ、ナガハシスミレと春の季節がドッと押し寄せてきたようである。



 先ずは山菜山に入って今日のおかずと若干の「おすそ分け」にする量のコゴミを採る。雪が解けたばかりの山菜山の斜面では、鮮やかなスミレサイシンの紫、眩しいほどのオオバキスミレの黄色、そして腰を伸ばしておやじ小屋を望むと、25日に開花した山桜(カスミザクラ)が一気に満開となって春日に輝いていた。

 午後になって市内に住むOさんが息子さん夫婦、そしてお孫さんも連れてコゴミ採りにやってきた。山菜山の斜面から賑やかな歓声が聞こえていたが、小さな子ども時代に山菜採りの楽しさを教えることは本当に大切な事だと思う。

 一行が帰り、折畳み椅子を出して静になった山菜山の風景を見続けていた。萌え出した淡緑の斜面や目の前で絢爛と咲き誇るカスミザクラを独り占めして、「俺は何ともったいないことをしているのか!」と最高の贅沢に酔いしれていた。

 そして夕方になって、キャンプ場から見た燃えるような夕焼けも、目と胸に刺さりこむ程の美しさだった!
 
2013年4月29日(月)晴れ〜曇り
おやじ山の春2013(珍客の闖入)
 今日も4時半に起きて早々とおやじ小屋に出勤した。このところ三寒四温ならず一日一日天候がクルクル変わって、今日は貴重な2日連続の晴れ日である。小屋に着いて作業手帳を開き、懸案の作業項目をメモする。

『・ログトイレ造り ・谷川水道敷設作業 ・小屋周りの杉枯れ葉処理 ・○○の一部移植(移植場所の整地) ・西斜面水場の草刈(遊歩道敷設作業) ・ミズバショウの苗箱移動 ・△△・・・ ・××・・・ ・・・・』
 と書き出したところで、果たして、先ずは小屋前のカスミザクラを山菜山から眺めて見ることにした。

 山菜山の中腹まで登って斜面に腰を下ろし、朝日に輝くカスミザクラの花見をした。すぐ近くのアカメイタヤの新葉も和名の由来通りに美しく色付いている。そしてこの斜面で初めてスミレサイシンの白花を見つけた。やや希少種と言っていい。


 明日はまた雨の予報で、今日は先ず小屋周りに落ちている杉っ葉を燃やして片付けることにした。朝から午後3時まで、熊手とフォークで杉っ葉を掻き集めては焚き火で燃やし続けた。

 そして山から下りて、数日前から隣にテントを張って山遊びと娘さんの子ども(孫)の世話で目尻を垂らしている友人のOさんとキッチンテントで酒を呑んでいると、突然「こんばんわ〜」と女の声がした。外は既に真っ暗である。「わ〜!」と振り向くと帽子を被って山姿のオバサンがニコニコと笑っている。そして「ヒモ無いですか?」と訊くのである。山友達の男女4人であちこちの山登りを続けてここに辿り着いたが、生憎テントポールを何処かで落としてしまった。ここにテントを張りたいがテントの四隅を縛るポール代わりのヒモを借りたい、と言うのである。こういう場合のOさんの反応は実に素早い。酒でフラフラ揺れていた身体がシャキッ!と立直り、キッチンテントを飛び出るとコナラとマツに結んである物干し用のロープをスルスル解いてオバサンに手渡した。
 Oさんの親切はこれに留まらなかった。女が帰り、Oさんが再びキッチンテントの椅子に腰を下ろして直ぐ「あっ俺、あの連中に菜っ葉のお浸し持って行ってやろ」と、Oさんの手料理をタッパに詰めて届けに行った。

 それからしばらくしてからが大変だった。先方の4人が手に手に酒の入ったコップとOさんのお返しタッパに酒のツマミをぎっしり詰めて我がテントにやってきた。「先ほどはど〜も。ご一緒していいですか〜?」と言うが早いか連中はキッチンテントに闖入してクーラーボックスなどに座り込んではしゃぎ始めたのである。俺も大いに愉快になってワイワイ騒いでしまったが、はて?何を喋ったのか殆ど記憶が無い。
2013年4月30日(火)雨
おやじ山の春2013(珍客おやじ山へ)
 明け方ウトウトしていてハッと思い出して飛び起きた。昨夜の4人組との約束である。昨晩の宴会で問われるままにおやじ山の事を話したら、「よしッ!私たち明日は鋸山に登るつもりだったけど、鋸は中止。関さんの山に行こう!」と相成ってしまった。それも朝6時の出発だという。

 4時半、テントを出ると雨である。「4人組のテントは?」と見ると地際にグシャリとしなだれていて、よくもこんなテントで4人一緒に寝れたものだと感心してしまった。連中も既に起きていて、「こんな雨でも俺の山に行く?」と訊くと、「もちろん!」との答えである。

 Oさんも一緒に早朝のおやじ小屋に着いて、4人組は9時過ぎまで雨の山菜山でコゴミ採りをやっていた。連中がビショビショになって小屋に戻って来てから、ストーブの火を囲んで山談義に花を咲かせたが、著名な山岳クラブの関東支部に所属しているという4人の豊富な登山体験には全く舌を巻いてしまった。
 相手は俺の山暮らしを羨ましがっていたが、この男女4人組の、こうして全国各地を放浪しながらその土地の山登りを楽しんでいる生き方も実に魅力的に思えた。

 午前中にキャンプ場で4人組を見送り、午後になって再びおやじ小屋に行った。おやじ山に生えている貴重種の一部移植である。残念ながら万が一に供えてのためだが、成功するか否かは分からない。本来ならば自然は自然のままに、がベストなのだが・・・

 そして午後7時過ぎに新しい客人が来た。森林インストラクター神奈川会のUさんである。Uさんも忙しい日程を割いて毎年おやじ山に来てくれる嬉しい仲間である。テントを打つ雨の音を肴に、Uさん差し入れの越後銘酒を二人で酌み交わす。
 雨音に混じって、遠くの方から蛙の鳴き声が聞こえてくる。今年は春が遅く、苗代つくりも手控えられていたようだ。そして今日の昼、高台に出てみるとようやく田圃に水が入り始めていた。蛙のコーラスもいよいよ賑やかになってくる。
 ・・・・・(おやじ山の春2013「5月日記」へつづく)・・・・・