2013年12月5日(木)晴れ |
甲斐の国の山旅 |
先月24日から、甲斐の山々を流れ歩いて、一昨日藤沢の自宅に戻った。そして大荷物を片付け終わって机の前に座り、最後の一枚となった師走の暦を見つめながら何やら大きな溜め息が漏れ出た。また一年が過ぎ去ろうとしている時の速さを、儚く残った暦の一枚で気付かされるとは・・・。
今回の山梨県の森林調査は実に広範囲に渡った。県北部の甲武信ヶ岳(2475m)を盟主とする奥秩父山塊を皮切りに、中央部の富士五湖地域の山々、そして県東部、東京都の水源地である奥多摩地域、更には東南部、横浜の水源地道志川流域、後半からは、北岳(3193m)、間ノ岳(3189m)、農鳥岳(3026m)と天下の高峰連なる銀白の南アルプスの麓を広河原から野呂川に沿って南下し、最終日には南部の笊ヶ岳(2629m)を望む早川の支流域を攻めて今回の調査を締めくくった。
今回のパートナーは初めてペアーを組むMさんだった。そしてMさんは主査として既に2度山梨県入りしていて、過去の調査で踏破できなかったポイントが2ヶ所あった。間ノ岳直下の標高2200mのポイントと笊ヶ岳登山道から谷越えの急斜面を攀じる難所で、今回は3度目の挑戦である。幸運にも、10日間の全調査日が素晴らしい天候に恵まれた。小春日和の穏やかな日差しと、枯れ葉が落ちて山肌が見通しのきく時期に入っていたことが奏功した大きな要因だったと思う。最後にお礼を言われて、Mさんにとって初めてパーフェクトを達成した今回の調査だったと聞かされた。嬉しかったなあ〜。
そして俺にとっても、今回は2008年から毎年続けてきた森林調査(京都議定書に基づく「森林吸収源インベントリー情報整備事業」)の最終回の仕事だった。
思い起こせば、2008年1月に実施した最初の調査地が、やはり山梨県だった。それから6年間、北は宮城県から南は九州宮崎県まで、全国18都県、出張回数は28回、実に500ポイントを超える全国の森林を歩き回った。猛暑や凍える寒さ、深い渓谷の渡渉や絶壁のような斜面の登攀、ヤマビルに悩まされたり真新しいクマの足跡にギョッとしたりもしたが、やはり何と言っても全国の山々で出会った美しい日本の風景は、俺にとっての大きな心の財産となった。そしてこのかけがえのない自然を、ゆめゆめ人類が作り出した悪業によって汚し台無しにすることがないようにと祈らずにはいられない。
今回の甲斐の国の山旅でも数多くの美しい風景に出会った。先ず何と言ってもこの国で富士山を抜きには始まらない。本栖湖から望んだ富士山の素晴らしさったらなかった!澄み切った真っ青な空を映した本栖湖と雪を頂いた純白の富士、そして茶色く冬枯れた広葉樹との見事なコントラストには思わず唸ってしまった。この日も富士に魅せられたカメラマンをあちこちで見掛けたが、なるほど「不治(富士)の病」とは良く言ったものである。
そしてかつて俺が若かりし頃、北岳登山の前日にテント泊した懐かしのベースキャンプ地広河原に向けて南アルプス林道を車で走っていたその途中で見た銀白の連山!どっしりと構えた北岳、その左隣りに穏やかに居並ぶ間ノ岳、そして更に左が厳しい山容の農鳥岳である。何と言う神々しさであろう!粛然としてこれらの山々の前に佇んでいると、熱い涙が零れてくるのである。
6年続いた山旅の最後に、かくも美しい日本の風景に出会ってフィナーレを迎えられたことに心から感謝したい。
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