森のパンセ   山からのこだま便  その132(2023・6・18)
おやじ山の初夏-雨の中の風景

 5月も末になると、おやじ山の森は濃さを増して、日いち日と緑の層が厚く奥行きが深くなってくる。春の季節がスタートした当初の彩りある森の賑わいも消えて、深緑一色の重厚な佇まいの森となる。とりわけ、雨の日に山仕事を休んで街に下りる途中の山径では、雨に打たれた森の緑が、いっそう厚く、深くなったように感じられる。
 そんな山径ではっと目につくのが、黒く濡れた山径に白い珊瑚をまき散らしたようなエゴの落花である。「こんな所にエゴの木があったのか」と改めて天を仰いで確認したりする。

 また、濃くなった森の中で目立つのがヤマボウシの花である。白い総苞片をまるでクリスマスツリーのように着飾って存在感を表わしている。

 麓で目につくのが道端のハルジオンと除虫菊(シロバナムシヨケギク)である。除虫菊を見ると、遙か昔のガキの頃に、道草をくいながら歩いた下校時の田舎の風景を決まって思い出すのである。
 おやじ山の初夏は、白い花から始まるようである。

 この時期、麓の村では少し前から一斉に田植えが始まり、今は落ち着いた早苗田の風景となる。シトシトと雨が降る日に、水の張られた田んぼに行儀よく並び植えられた早苗は実に美しく(玉苗という)、農家の人の田への愛情と律儀さとがそっくり分かる気がするのである。
 今朝の新聞(朝日俳壇)から
  水満々植ゑし早苗の溺れそう  (水戸市) 
井師 繁次