森のパンセ   山からのこだま便  その116(2021・6・25)
みるく世(ゆ)の謳(うた)-みるく世ぬなうらば世や直れ
     【「日記」-仙人のつぶやき-「2021年6月24日日記」からの転載+加筆】

 6月23日に開催された「沖縄慰霊の日」の追悼式典で、沖縄県の中学2年生上原美春さんの「みるく世の謳」と題する詩の朗読があった。その全文が翌24日の朝日新聞に掲載された。長詩ともいえるその詩を、2度、3度と繰返し読むうちに、共感と賛意の感情がさざ波のように胸に迫って、大きな感動の波頭となって胸を打った。
 以下は、美春さんが朗読した全5連詩のうちの、第4連の部分である。

 
いま摩文仁の丘(*1)に立ち 私は歌いたい
 澄んだ酸素を肺いっぱいにとりこみ 今日生きている喜びを震える声帯に感じて 決意の声  高らかに
 
 みるく世ぬなうらば世や直れ
(*2)
 平和な世界は私たちがつくるのだ

 共に立つあなたに 感じて欲しい
 滾(たぎ)る血潮に流れる先人の想い

 共に立つあなたと 歌いたい 蒼穹(そうきゅう)へ響く癒(いや)しの歌 そよぐ島風にのせて 歌いたい 平和な未来へ届く魂の歌

 私たちは忘れないこと あの日の出来事を伝え続けること 繰り返さないこと 命の限り生きること 決意の歌を 歌いたい


注)(*1)摩文仁の丘:第二次世界大戦における沖縄戦の終焉の地。この丘に各県の慰霊塔が並ぶ。沖縄県平和祈念公園内の南端に位置する。
(*2)みるく世ぬなうらば世や直れ:(平和なら、暮らしは良くなっていくよ)。宮古島民謡「豊年の歌」の一節。「みるく世」(弥勒世)は、「神様が納める、平和で豊かな世界」。

   
写真奥が「摩文仁の丘」    摩文仁の丘から沖縄戦に想いを馳せる(2019年5月20日訪問)
上原美春さんは、小さい頃から祖父が歌ってくれる「豊年の歌」の一節を詩の中で披露した。

 沖縄戦での多大な犠牲、米軍専用施設と辺野古の新基地問題、そして新型コロナによる緊急事態宣言下の今なお苦難の沖縄に、みるく世が一日も早く訪れますようにと、祈るばかりである。

「みるく世(ゆ)の謳(うた)」(全文)

1
2歳。 初めて命の芽吹きを見た。
生まれたばかりの姪は 小さな胸を上下させて 手足を一生懸命に動かし 瞳に湖を閉じ込めて 「おなかすいたよ」「オムツ替えて」と 力一杯、声の限りに訴える 
大きな泣き声をそっと抱き寄せられる今日は、 平和だと思う。 赤ちゃんの泣き声を 愛おしく思える今日は 穏やかであると思う。
その可愛らしい重みを胸に抱き、 6月の蒼天を仰いだ時 一面の青を分断するセスナにのって 私の思いは 76年の時を超えていく

この空はきっと覚えている 母の子守唄が空襲警報に消された出来事を 灯されたばかりの命が消されていく瞬間を
吹き抜ける風は覚えている うちなーぐちを取り上げられた沖縄を 自らに混じった鉄の匂いを
踏みしめるこの土は覚えている まだ幼さの残る手に、銃を握らされた少年がいた事を お帰りを聞くこともなく散った父の最後の叫びを
私は知っている 礎(いしじ)を撫でる皺の手が 何度も拭ってきた涙 
あなたは知っている あれは現実だったこと 煌びやかなサンゴ礁の底に 深く沈められつつある 悲しみが存在することを

凛と立つガジュマロが言う 忘れるな、本当にあったのだ 暗くしめった壕の中が 憎しみで満たされた日が 本当にあったのだ 漆黒の空 屍を避けて逃げた日が 本当にあったのだ 血色の海 いくつもの生きるべき命の 大きな鼓動が 岩を打つ波にかき消され 万歳と投げ打たれた日が 本当にあったのだと
6月を彩る月桃が揺蕩(たゆた)う 忘れないで、壊すのは、簡単だという事を もろく、危うく、だからこそ守るべき この暮らしを
忘れないで 誰もが平和を祈っていた事を どうか忘れないで 生きることの喜び あなたは生かされているのよと

いま摩文仁の丘に立ち 私は歌いたい 澄んだ酸素を肺いっぱいとりこみ 今日生きている喜びを震える声帯に感じて 決意の声高らかに
みるく世ぬなうらば世や直れ
平和な世界は私たちがつくるのだ
共に立つあなたに 感じて欲しい 滾(たぎ)る血潮に流れる先人の想い
共に立つあなたと 歌いたい 蒼穹の響く癒しの歌 そよぐ島風にのせて 歌いたい 平和な未来に届く魂の歌
私たちは忘れないこと あの日の出来事を伝え続けること 繰り返さないこと 命の限り生きること 決意の歌を 歌いたい

いま摩文仁の丘に立ち あの真太陽まで届けと祈る みるく世ぬなうらば世や直れ 平和な世がやってくる この世はきっと良くなっていくと 繋がれ続けてきたバトン 素晴らしい未来へと 信じ手渡されたバトン 生きとし生けるすべての尊い命のバトン
今、私たちの中にある
暗黒の過去を溶かすことなく あの過ちに再び身を投じることなく 繋ぎ続けたい
みるく世を創るのはここにいるわたし達だ

(写真は「平和の礎(いしじ)」と「月桃(げっとう)の花」)

<以下の写真は、2019年5月の沖縄旅行時に撮影>

    埋立て進む辺野古の海     ひめゆりの塔    命を絶ったひめゆり学徒の写真(平和祈念資料館)

       摩文仁の海                 焼失前の首里城(2019年5月21日訪問)