山のパンセ(その33)
 

雪国の焚き木考
 奥越後松代に住む高橋八十八氏の著書「雪国の四季と草木と人間と」によると、<ボエ(焚き木にする柴)をかまける(束ねる)にはシシハライが一番(いっち)いい。サンナメシ(リョウブ)、カシマメ(ツノハシバミ)、ハッコ(ユキツバキ)もネジリッキ(捻りっ木)にはいいが、シシハライにはかなわない>そうである。シシハライはマンサク(正確にはマルバマンサク)の越後の方言、シシバナと言えば、マンサクの黄色い花の事である。

リョウブ
 まだ石油やガスが一般的ではなかった時代、雪深い越後では、暖房や煮炊きには「ボエ」を使った。ボエとは細い焚き木のことで、山の斜面に普通に生えているリョウブ、マルバマンサク、カエデ、コナラ、ウワミズザクラなどの低木を鉈や鋸で「ボエ伐り」して使った。切り払われた斜面にはすぐ切株から新芽が出て、そしてまた数年後にはボエ伐り山として循環利用されてきた。そしてその伐ったボエを捻って束ねることを「ネジリッキ」と言う。それにはしなっこい(粘りがあってしなやかな)シシハライ(マルバマンサク)が最高だ、というのである。

マルバマンサク
  「ボエ伐り」は、残雪の山で柴を切る「春木(はりつき)」と晩秋の頃の「秋伐り」があるが、早春のまだ樹木が芽吹く前の樹液がたっぷり蓄えてある生木を伐るほうが枯れても火力が強いという。因みに、生木でも燃えて焚き木に重宝するといわれているアブラチャン(越後の方言はジシャガラ)は「じきに燃え切れる」し、クロモジは「燃やすと木の株から泡(あぶく)が出てきて匂いはいいが、火力も火持ちも悪い」と雪国では評判が良くない。
 囲炉裏などで火を焚くには、先ず「杉っ葉」に火を点け、「ボエの小枝」、「ボエの太枝」と火を回し、そして「バイタ」(比較的太い丸太の焚き木)や「ワッツァバ」(斧で割った薪)に火を移せば火力が安定する。
 こうして里山に生える樹木は、建材や用材として利用された他に、「ボエ」として雪国の人たちにとっては長い冬の間の暖房や煮炊きなどに欠かせない暮らしの中の必需品だったのである。  (2009年7月13日 記)
参考図文献 :高橋八十八著「雪国の四季と草木と人間と」 

コナラ