(その17)
おやじ山の秋・2007
<その1−キノコ異変ー>
夏が終わって秋風が吹き始めると、落ち着かなくなる。きのこのシーズンに入るからである。私にとってキノコ採りは春の山菜採り同様大きな山の楽しみである。山菜採りとキノコ採りの喜びの違いをあえて言うと、山菜採りはある程度目的の山菜の出る場所が決まっていて、そこで多く収穫できるといういわば収量的な喜びが中心だが、キノコ採りは山を探し回って偶然出会うという発見の喜びである。大株の立派なキノコを見つけたりすると、心臓がドキンとする。そして山の中で誰も近くに居るはずがないのに思わず周りを鋭く見回して、自分が人から見られていないことを確認するのである。動物が餌を見つけた時の仕草と全く同じ行動である。昔からキノコ採りのことを「キノコ狩り」と言うから、先人もキノコ採りには動物と似た感情を持っていたのかも知れない。
さて今年(2007年)のキノコだが、全くの不作だった。近年稀である。常連達がシーズン到来と鼻息荒く山に入っても、帰りにはガックリ肩を落として、「どうです?採れましたか?!」などと迂闊に声をかけようものならギョロリと睨み返されてしまう程だった。
今年は例年より少し遅れて10月1日からおやじ山に入ったが、まるで青々とした夏山の様相だった。早速キノコ探しに歩き回っても毒キノコ1本見当たらない。山がカラカラに乾いていてキノコの匂いさえしなかった。(私はキノコの生えてる場所に来るとプ〜ンと匂いを感じる)そしてようやく待望のキノコ(アミタケとシャカシメジの幼菌)を初見したのは10月11日、10月8日にまとまった雨が降ってから3日後である。
実は昨年もキノコの出が遅れた。昨年は9月26日にウラベニホテイシメジやアミタケの幼菌が出始め、9月30日から10月1日にかけてワッと山中がキノコだらけになった。それでも例年より8日遅かったから、今年は昨年より半月、例年よりは20日以上も遅れて発生したことになる。
例年、おやじ小屋に向かう山道の脇にはキンロク(ニンギョウタケ)とウラベニホテイシメジが沢山出る。昨年の10月1日には小1時間で立派なキノコを30本も採った。それが今年は殆どこれらのキノコは出なかった。シーズンになるとおやじ小屋を訪ねてくれるキノコ名人達も「おかしいがてェ?どうしたんだろうねえ?」と頻りに首を傾げている始末である。
10月も中旬になってから、山にようやく秋の気配が来た。8日の後、ようやく15日にまとまった雨が来て山も湿り次第に秋らしく色づいてきた。そして10月21日に日本列島が冬型の西高東低の気圧配置になり、おやじ山の朝の気温が9度まで下がるようになって、乾地性のイグチ類の他にムラサキシメジ(ムラサキフウセンタケ)やニセアブラシメジ(クリフウセンタケ)といったフウセンタケ類がぽつぽつと出始めた。
しかし今年はキノコの収量が少なかった中で、10月下旬から出始めたナラタケ(長岡ではアマンダレまたはクズレと言う)だけは沢山出たように思う。私も随分採ったが72歳のヤマイモ掘りの名人Mさんなども、どっさり背負ったヤマノイモの他に大きなレジ袋一杯のアマンダレを重そうに吊り下げて山を下りてきた。とても美味しい第一級の食キノコだが「ナラ枯れ」で荒れた山の象徴でもある。(2007年11月19日 記)