山のパンセ(その36)

おやじ山の稀少動植物

 2010年の春、おやじ山に籠っていたある一日、新潟県立植物園で「絶滅危惧植物展」を開催しているというので見学に出かけて行った。
 

 そしたら、おやじ山で普通に自生しているいくつかの植物が「準絶滅危惧種」などとプレートに表示されて仰々しく展示されているのでビックリしてしまった。この「おやじ小屋から」のトップページ<Forest Forever>に、おやじ山を<irreplaceable treasure>(かけがえのない宝物)と書いたが、自身の大切な心の拠りどころであると同時に自分が関わり合う生き物達の稀少性の面からも、まさにかけがえのなさを改めて痛感した。
 
 以下、「絶滅危惧植物展」で観た内容をなぞりながら、おやじ山での稀少動植物のいくつかを紹介します。どうかこの文を読まれた皆さんがおやじ山の<irreplaceable treasure>(かけがえのない宝物)を将来にわたって大切に見守り、そして育てて下さいますように・・・

1、絶滅危惧植物の現状
 地球上の生き物はこれまでにないスピードで絶滅が進んでおり、現状の環境が続けば2050年までに種(未知のものを含めるとおよそ3,000万種)の1/4が絶滅の恐れがある
 植物に限ると、世界の植物300,000種類のうち100,000種類が絶滅の危機にあり、日本の植物7,000種類のうち1,690種(25種類は既に絶滅)が絶滅に瀕している。
 本植物展では小笠原の固有種で既に100株しか残っていないというムニンノボタンやカテゴリー最上位絶滅危惧1A類のオガサワラシコウランなどの貴重な展示があった。
  
   ムニンノボタン       オガサワラシコウラン

 新潟県の面積は全国で5番目に広く、国内有数の豪雪地帯である。そして585kmある長い海岸線と比較的温暖な佐渡などを含み、日本に自生する植物種の半数にあたる約3,000種類が確認されている。積雪が多く冬の日照時間が少ない日本海側の気候は、「日本海要素」と言われる独特の植物種を生み出し、越後新潟県の植生を特徴づけている。
 しかし3,000種の自生植物で既に3種類は絶滅(デンジソウなど)、350種類が絶滅の危機にある。
 絶滅危惧種で、ヒメサユリやオキナグサ、クマガイソウなどは「やはりそうか」と何となく納得できるが、オミナエシ(絶滅危惧T類)、カキツバタ(絶滅危惧U類)、エビネ(絶滅危惧U類)、キキョウ(新潟県:絶滅危惧T類、環境省:絶滅危惧U類)など、意外に身近な植物が含まれているのは驚きだった。
 
     オキナグサ                カキツバタ

 さらに驚いたことがある。おやじ山に普通に生えているコシノカンアオイ(新潟県:準絶滅危惧種、環境省:準絶滅危惧種)、イカリソウ(準絶滅危惧種)、そしておやじ小屋近くに群生しているトケンランは、何と絶滅危惧T類にカテゴライズされていたのである。おやじ山はまさに稀少植物の宝庫だったのだ。
   
  おやじ山のコシノカンアオイ      おやじ山のトケンラン        おやじ山のイカリソウ

2、植物が絶滅する原因
 植物が絶滅(または絶滅の危機に瀕する)原因は、土地の開発(35.8%)や採集・盗掘(24.2%)、森林伐採(13.7%)、さらには人が関わることで保たれてきた里地・里山が下刈りや枝打ちなどの手入れがされなくなって放棄されたことなど、その大部分が人間の活動によるもので、自然遷移は15%の要因でしかない。そしてさらに今後は、地球温暖化や帰化植物の影響など人為によるグローバルな要因がますます顕著に出て来るものと思われる。

3、植物が絶滅する影響
 @自然環境への影響
 自然環境は、生き物と生き物が複雑に関わり合いながら長い歴史の中でつくられてきた。人により多くの植物が絶滅すると植物を利用する動物などにも影響し、自然環境のバランスが崩れ、環境そのものが破壊されることになる。
 A人間の暮らしへの影響
 人間は古くから「衣・食・住」全ての暮らしの中で植物を利用してきた。そして今後も病気に効く薬など、植物の新たな利用が更に深まってくる。植物の種が絶滅するということは、これらの貴重な資源を失うということである。

4、おやじ山の稀少な生き物たち
 おやじ山には食草のコシノカンアオイがあちこち普通に自生していることで、他県では珍しいギフチョウ(新潟県:準絶滅危惧、環境省:絶滅危惧U類)がたくさん飛んでいる。昨年までは大きな捕虫網を手にしたマニアがおやじ山の麓の自然観察林内に出没していたが、今年ようやく長岡市が保護の立看板を立ててくれた。
 そして小屋脇のおやじ池にはクロサンショウウオ(新潟県:準絶滅危惧種)、アカハライモリ(新潟県:準絶滅危惧種)、モリアオガエル(新潟県:準絶滅危惧種、旧板倉町:天然記念物)などが生き生きと泳ぎ、春になれば「キッス・ミー!」とサシバ(環境省:絶滅危惧U類)がおやじ山の上空を旋回し、初夏には「月・日・星ホイ・ホイ・ホイ!」と南の国からサンコウチョウ(準絶滅危惧種)がおやじ山の杉林にやってくる。
  
                                        おやじ池のクロサンショウウオ

   
  おやじ池のアカハライモリ        モリアオガエルの卵嚢とおやじ池のモリアオガエルのペア

 やっぱりおやじ山は素晴らしく、かけがえのない宝の山だと思うが如何なものだろう・・・   (2010年6月26日 記)

注)文中の記載内容とデータは平成22年開催の「新潟県立植物園 絶滅危惧植物展」の展示パネルから引用させていただきました。絶滅危惧カテゴリーの表記は、「レッドデータブックにいがた」(新潟県2001年版)を参照。またカテゴリ区分は以下の表の通りです。