山のパンセ(その44)

郷土の方言ー「鳥」編 (高橋八十八著「わたしの落穂拾い集」<第4集>より)

 「森のパンセ−その43」の<虫編>に続き、<鳥編>である。
 本編も敬愛する奥越後松代(現、新潟県十日町市)に住む高橋八十八氏の19冊目の著書「わたしの落穂拾い集」第4集、「郷土の方言博物誌」(山岳雑誌「アルプ」投稿記事より)の文章のなかから勝手に拾いとって以下にまとめさせてもらった。(主に新潟県中越地方で昔から呼び慣らわされていた動植物の方言で、今回は「鳥」である)<下表の参考写真は「ウィキペディア・フリー百科辞典」より>

方 言 正 式 名 参考写真
ヨイチベジイジ 【サンコウチョウ】
三つの光、「月日星ホイホイホイ」と鳴くのでこの名があるそうだが、ここでは「ヨイチベジイジ、コイコイコイ」と鳴くからこの名がある。私はよくサンコウチョウの鳴声を口笛ですることがある。すると向うの林で囀っていたものが、グィッ、グィッと警戒音をたて頭上に翔んでくる。
チョウセンバト 【ブッポウソウ】
生家の裏山のブナ林で初夏の候となるとチョウセンバトがやってきて、いくつがいが巣をかけ「グェケーッケッケケケケ」と鳴きながら翔び交わす。外国から来る意の朝鮮鳩であるが、隣の山平地区では翼の下面に紋があるので、この鳥をモンツキ(紋付)といっている。
イシクナギ 【キセキレイ】
『日本書紀』に鶺鴒が神に男女交合の道を教える場面があるが、婚(くな)ぎ方を教え、石の上に棲んでいるから「石婚ぎ」というのだろうか。その鳴声からツンツンと呼ぶ人もある。
ウマオイドリ 【アオバト】
「山に行ぐと、ウマオイドリってトット(鳥)がいて、ホーイホーイてって鳴くんだっけがなア」高橋モミ婆サは民話を語り終わってからの茶飲み話の中でこんなことをいった。
キジントリ 【キジ】
母は「キジントリは人間をバカにしてるんで、”ケンケン、バタバター、ニンゲン、バカバカー”そって鳴くんだ」といって教えたものだ。「キジントリぁバカだ、親にまぐれてひとりケーンケン」老婆が背中の子をあやしながら歌っていた。
シマイドリ 【ツツドリ】
高橋モミ婆サが「シマイドリって鳥が、ばんがた(夕方)仕事じまいの頃になると、ボウボウ、ボウボウ鳴くんだっけがなア。サア、しまい鳥が鳴くすけ、家へ帰ろうじゃ、そっていたもんだ」といった。
ドウ 【トキ】
「むかーし、オラ(俺)親爺サが子供ン頃、ドウって大(で)っけえ白い鳥がいたんで、ブワーンブワンと翔んできたんだっつぉ。これがくると”ドウ雪七掘り””ドウ雪八尺”てって、その年は大雪が降るんだっつぉ」(ドウは鴇という字の音便「トウ」からと思われる)
サカエブ 【カケス】
カケスのことをサカエブという。ギャッギャッという声が叫ぶようでサカエブでもあるまい。シャツケブともいう。よくネコやタカの声を真似ているが、一年前に聞いて憶えたブッポウソウの声を忘れずに復習していた。記憶力のいい鳥かも知れない。
ドテポッポ 【キジバト】
「ホラ、悪(わり)子になると、山ン姥(ばば)が出て来て取って食うてって声がしるがな」と母は泣きやまない幼い私をおどした。なるほど、山の方で「トッテークークー、トッテークークー」という声がする。この取って食う、にすっかり怯えて泣きやむのだった。
ミソキッチョ 【ミソサザイ】
父はミソキッチョは肺病の薬になるとか、体が温まるとかいうもんだ、といって毟って炙った。子供の親指ぐらいしかない小さな鳥を私に食えというのだが食えない、というと、自分で一口で食ってしまった。春先になると意外と美しい声でせわしげに囀るものだ。
ギャギャドリ 【ムクドリ】
「まーず、ギャギャドリの奴が畦豆みんな食っちゃって、また蒔き直ししねぇんけんね」とこぼさせるギャギャドリというのはムクドリで、雪の降り止む三月初旬に雪のない所へ出稼ぎに行っていたのが帰ってくる。春告げ鳥というべき鳥である。
キリスズメ 【カワラヒワ】
キリスズメはカワラヒワで、キリキリージョイジョイと鳴くキリか、霧のキリかはっきりしない。「せっかくのながしろ(苗代)のすじ(種籾)をキリスズメの野郎がみんな食っちまった」と周平さんが口説いていた。
クイノ 【ヒクイナ】
「クイノは作神様てって、クイノが巣をかける田の稲はいいんだ」と高橋新吉老はいう。稲がよく葉の繁っている所で、その葉を寄せてハンモックのように吊り巣をかけるのだ。生育の悪い田には営巣しないからいうのだろう。
ケロロ 【アカショウビン】
「朝起きてみたら、たね(池)の上の電線にケロロの奴が止まってて、鯉の子をねらっていたんだがねぇ。石ぶつけて追ったこてね。まーず大分鯉の子食われちまったげだなァ」このケロロというのはアカショウビンのことである。
ヒョウビン 【カワセミ】
カワセミの別名がショウビンだが、訛ってヒョウビンという。仲間のアカショウビンは夏季には珍しくもなくいるし、一年を通じてヤマセミことカノコショウビンは川筋によく見られる。
ケラツツキ 【アカゲラ】
お釈迦様が涅槃に入ると言う知らせが世界中に飛んで、スズメは頬っぺたの鍋墨も落とさず駆けつけ、ケラツツキは赤い頭巾を被り、しゃなりしゃなり出かけて行ったので、お釈迦様はスズメは米を食ってよい、ケラツツキには一生固い木をコンコンと血をながしながら突くことを命じた。
マメマキドリ 【カッコウ】
カッコウがやってくる頃は田植えだ。ホオの葉に包んだきな粉をまぶした握り飯を昼食にしながら畦に尻をついてカッコウを聞く。この鳥が鳴くと豆蒔きの時期だというのでマメマキドリという。春ゼミを鳥の声と勘違いしてマメマキドリという人もいる。
セックドリ 【ホトトギス】
カッコウと前後してやってきて”明日節句だ!明日節句だ!”と告げ歩くホトトギスをセックドリという。節句といっても月遅れだから6月5日である。その頃になるとクイバナ(ヤマツツジ)が咲く。ホトトギスの喉の血が滴ってヤマツツジになった、という伝承がある。
マグソッタカ 【ノスリ】
タカが高鳴きすると天気がいい、と言われる。高い上空でピィーピィーとのどかに聞こえるのはノスリで、こんな日は上天気なのである。どうしてノスリがマグソッタカとかクソトビなどと下品に呼ばれるのだろうか。
アカストト 【ホオジロ】
「戸間口にスズメが一杯来るすけ、籠ドウシを仕掛けてつかめたら、一羽アカストトが入っていた。こうして飼ってるとメゴイ(可愛い)くていいもんだのう」という人の鳥籠の中にホオジロがバタついていた。
アオストト 【ノジコ】
アオストトというのはノジコである。鳴声が「ピイピイストトピイ」というように聞こえるところからきたらしい。
オソ 【ウソ】
「学校の前のサクラの蕾をオソが来てみんな食っちゃって、今年もまた花見しらんなくなっちゃった。なんとかならんもんかのう」と用務員がいった。オソとはウソである。オスは頬が赤くテリオソ、メスはそれがなくてクモオソという。
シャギ 【サギ】
子供が脚の長い鳥のヒナを歩かせて取り囲んでいた。「ねら、そのトット(鳥)は何だや」と聞くと、「これはシャギそえ」という。サギの子である。サギといってもこの辺ではアオサギしかいない。
ノリツケホウセ 【フクロウ】
今年の冬は休みなく雪が降った。「早くノリスケホウセが鳴かねぇかのう。あれが鳴くと雪が止むってがだが」と恨めしげに空を見上げる。フクロウが「糊つけ干せ」と鳴くとよい天気になると言われている。
フクリョ 【フクロウ・アオバズク】
フクロウとアオバズクをひっくるめてフクリョという。単なるフクロウという語の発音不良でしかない。夜アオバズクの幼鳥は草むらの中なので「ピリピリー」と鋭く鳴く。