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2023年7月1日(土)雨
おやじ山の夏2023(山滴る頃)
 6月25日に再びおやじ山に入り、あっという間に既に1週間近くが経った。梅雨時とはいえ連日の雨で、いささかうんざり気味である。「山滴る」とは夏の季語で、草木の葉が生い茂って緑色で覆われた瑞々しい夏の山姿を形容する言葉だが、雨に打たれたまま寡黙に佇んでいる山菜山の緑の山肌を見ていると、これこそ「山滴る」にぴったりではないかと思ってしまう。

 深く濃くなったおやじ山の緑の山容も、夜になるとまた別の表情に変わる。この頃からホタルも飛び始めて、風の小屋のデッキに出てコップ酒を傾けながら闇に目を凝らす。そして目が慣れてくるとモノトーンの夜の景色が見えてくるのである。
 目の前の山菜山が藍色のホリゾントとなって風の小屋手前に立ちはだかるイタヤカエデを漆黒のシルエットで際立たせ、その山稜の奥で少し明かりが差したような梅雨時の夜空が淡墨色で天を覆っている。

 「あっ」と思わず小さく声を上げる。ホリゾントの一点がパッと強く光って黄色い光線が闇の谷を走る。ゲンジボタルである。そしてイタヤカエデのシルエットに瞬時隠れてからふわりと抜け出て、淡墨色の天空に舞いながら昇っていくのである。いつも感心してしまうのだが、このホタルの緩急自在の飛翔こそ、まさに「光の音符」と呼ぶにふさわしいと思っているのである。
 
2023年7月14日(金)曇り
おやじ山の夏2023(下山の風景と飛騨・美濃国の旅)
 7月9日(日)の夜は、地元長岡の山仲間たちが集まって来てくれて、恒例のホタル観賞会と風の小屋で囲炉裏を囲んでの最後のお茶会をした。今年はホタルの発生が例年に比べて少なかったが、Nさん曰く「ホタルはこれぐらいがちょうどいい。佃煮にするほど出たら面白くも何ともない」ということだった。そして夜8時半を過ぎて、皆をおやじ山の出口まで見送り、互いにライトを振り回しながら別れを惜しんだ。

 翌7月10日(月)に山を下りた。関越道で真っ直ぐ藤沢の自宅に帰っても良かったのだが、今回の山入はカミさんと一緒だったので、現役時代に転勤で家族と3年間過ごした富山に寄り道したのである。富山で一泊した後、東海北陸自動車道を走って岐阜県に入り、木の国飛騨の白川郷と高山に寄り、更に水の国美濃の郡上八幡で道草を食って、東海環状自動車道経由で新東名に入り、東名高速道路、そして圏央道とひた走って11日深夜に自宅に倒れ込んだ。(それなら草臥れ果ててすぐ寝れば良さそうなのにそうは行かず、何やら仇をとるようにグダグダ12日の明け方近くまで酒を飲んでしまった)

 思い返せば、先月25日におやじ山に入った時には、作業道脇のウツボグサの青い花が目も鮮やかに出迎えてくれたが、10日の下山時には花も終わって茶色く枯れていた。(この野草は夏に枯れることから別名「カコソウ」、漢方では「夏枯草」の名前で利尿剤にする)
 今年の新潟県の梅雨入りは6月11日だったが、梅雨の走り頃はコシジシモツケソウやノアザミなどの赤紫系の花が山で彩りを添えてくれる。そしてその後にはエゾアジサイが咲き、アヤメやカキツバタ、ノハナショウブといった鮮やかな青紫の花へとバトンが繋がり、山径ではヤマホタルブクロやトリアシショウマの白系統の花群に混じって、このウツボグサの青い群落が目につくのである。
 ウツボグサの青が消えると盛夏のヤマユリが咲く頃まで、おやじ山は花の端境期になる。山は濃緑一色の寡黙な世界となる。

(下山時の山径で:写真左から) ヒヨドリバナ トリアシショウマ リョウブ ヤマホタルブクロ
 おやじ山の麓では、つい先日まで玉苗が穏やかに風に揺れていた早苗田が、逞しい姿の青田に変わっていた。
   
 国道352号線からおやじ山と青田を望む
 帰路は先ず東海北陸自動車道の白川郷ICで下りた。世界遺産白川郷の合掌造り集落を観たのは今回が初めてである。ここで2時間ほど時間を潰してから再び自動車道に入り、飛騨清見ICで下りて飛騨高山に向かった。飛騨高山は今までに機会があって何度も行った場所だが、何故か「今回が最後かも知れないなあ」という思いがあって訪ねたのである。
 白川郷の集落内もそうだったが、飛騨高山の「古い町並三町伝統的建造物群保存地区」、とりわけ観光スポットの上三之町界隈は外国人観光客でごった返していた。かつてはここに住まう村民や町民たちが営々と慎ましやかに暮らしてきたであろう村や町の佇まいが、観光客相手の土産店となりCafeやレストランとなり、美しい外観の風景とせわしない内実のギャップに戸惑うのである。これらの場所はやはり日本の原風景として、トータルで寛げる穏やかな場所であって欲しいと願うのだが・・・。
 美濃の郡上八幡は森林調査でKさんと訪れ泊まった場所でもある。時間も既に夕刻となり、町内をゆっくり車で走りながら来し方を車中から確認しただけで再び高速道路に戻った。

合掌造り集落を流れる庄川      合掌造りの家にはタチアオイがよく似合う

   営々と築いてきた慎ましやかな村の暮らしは今・・・?

観光スポットを外せば古き良き穏やかな風景が(飛騨高山)
 自宅に帰ったら連日35℃超の猛暑日である。ご近所のNさんから「何でこんなクソ暑い所に戻ったのよ」と言われてしまった。しかし今朝のテレビは、新潟県や富山県に線状降水帯が発生して大雨警報が出ていた。いずれもタイミング良く脱出したことになる。長岡の皆さんは果して大丈夫だろうか?
2023年7月24日(月)
梅雨明け(梅の天日干しとおやじ山のヤマユリ)
 21日(金)は新潟県を含む北陸地方が、そして翌22日(土)は関東甲信と東北地方の梅雨明けが発表された。途端に熱波襲来で、外に出て脳天に陽を受けただけでクラクラと目まいがしてぶっ倒れそうである。
 そんな中、折しも大暑の昨日からカミさんと梅干作りの天日干しを始め、今日で2日目である。伊豆のSさんから確保していただいた10キロの梅を、10%の薄塩で丁寧に漬込み、水が上がってから塩もみした赤じそを入れ、いざ昨日樽から手で掬ってザルに並べてみると、ちょっと顎に手を当てて「よしよし」と頷きたくなるような按配である。炎天下でザルに並んだ赤い梅は、やはり夏の風物詩である。

 さらに昨日はおやじ山倶楽部のKさんとN子さんにメールを出して、「今のおやじ山の様子、写メールで送って」とお願いした。取りあえず、と早速届いた1枚が以下の写真である。こんなのを見せられると(こっちから写真お願いしたのに)、もう直ぐにでも山に帰りたくなってしまう。


 万緑に呑みこまれゆく山家かな (徳永 桂子)(7月23日「朝日俳壇」)

 そう言えば加藤登紀子の歌で「帰りたい 帰れない」という歌があったのを思い出した。

 淋しかったら 帰っておいでと
 手紙をくれた 母さん元気
 帰りたい 帰れない
 帰りたい 帰れない

という歌詞である。今の俺の状況に似ているような・・・