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2020年6月23日(火)曇りのち晴れ
春の山ごもり(一時帰宅)
 6月20日に山を下りて藤沢の自宅に帰って来た。今年の春の山入りが2月26日だったので、何と116日間の山暮らしだった。

  今年の冬はかつてない小雪で、例年になく早々と山入りした。その後に新型コロナで世の中が大騒ぎになり、おやじ山で例年春に開催していた行事はもとより、神奈川に戻ってからの予定も全て中止や延期になり、あれよあれよとおやじ山籠りを続けているうちに今までの最長滞在記録となった。電気、水道、ガスも引かれていない山中での全くのアウトドア生活を、これほど長く続けられたのは、Sさんご夫婦をはじめとする地元の仲間の皆さんの、まさに青天井のご親切のお蔭である。

 2月の山入り直後に珍しく(初めて?)体調を崩した。この時期、例年なら1メートルは残っている雪も無くて、山入り早々風の小屋建築と山仕事に夢中になってしまった。雪は無くても山の気温は零度まで下がったし、おまけに水事情が不便でろくな料理も作らずに仕事に精出して栄養失調になった。
 この時、地元の仲間たちがこぞって栄養ドリンクやらビタミン剤やら精のつく食料やらを持っておやじ小屋に駆けつけてくれたのだ。涙だ出るほど嬉しかった。

 いつもの年なら、ぶ厚く残った山肌の雪が次第に融けて、根開きの木々から若葉が萌え出し、その眩い残雪の白と木々の若緑のコントラストが堪らなく胸をときめかす巡りくる雪国の早春。しかし残念ながら今年のおやじ山には雪が無く、何とも物足りなくはあったが、やはり春先のおやじ山は俺が一番好きな季節だ。

 向かいの山菜山では冬枯れのくすんだ大地に、無数のフキノトウが縦横無尽に黄緑色の点画を描き出し、少し遅れて鮮緑のコゴミが広大な群落で大地を彩る。それからおやじ山は爆発的なカタクリの芽出しが始まり、3月31日には満開となって山全体をピンクの花園で埋め尽くした。

 そして、キクザキイチゲ、ショウジョウバカマ、トキワイカリソウ、オオバキスミレ、スミレサイシン、ナガハシスミレ、マキノスミレ、さらにタムシバやオオカメノキが咲き、4月21日にはおやじ小屋の前のカスミザクラの大木が満開となって春本番を迎えたのである。

 おやじ池では、3月から4月にかけてクロサンショウウオが産卵し、5月下旬から6月にはモリアオガエルの産卵池となる。
 小屋前のホウノキに掛けた巣箱には今年もムササビが誕生し、不思議と小屋を出て携帯ラジオを点けると子ムササビが巣箱から愛嬌よく顔を出すのである。
 クルミの大木に掛けた巣箱で、今年はフクロウが3羽誕生した。巣立ちは例年より5日ほど早く、1羽目5月5日、2羽目9日、3羽目は5月11日に巣箱を飛び発った。そして15日には親フクロウに連れられた3羽がおやじ山専用径のコナラに留まっているのが確認された。

 6月に入って、おやじ山は一気に「山滴る」夏山となった。山肌の緑が油絵具を塗り重ねるように日に日に濃くなって行く。6月初旬からアヤメ、ノアザミ、ノハナショウブ、エゾアジサイとおやじ山はシックな紫で彩られる。とりわけノハナショウブの気品とエゾアジサイの清楚は、強々しくなった夏の森の中で一層引き立つのである。

 そして山を下った6月20日の山径では、白いヤマボウシの花が満開だった。木に巻き付いたイワガラミの白い花やマタタビの白変した葉など、梅雨時の薄暗い森の中は白色が目立つようだ。

 長いおやじ山暮らしの間、地元の仲間と一緒に風の小屋造りにも精を出した。皆さんの体力はもちろん、いろんなアイデアなどの知力も頂き、完成に近づきつつある。
 「森のパンセ」に最新の経過をアップするので是非観て下さい。